カロッツェリア・トゥーリング

カロッツェリア・トゥーリング：イタリアン・コーチビルダーの伝説

カロッツェリア・トゥーリングは、1926年3月25日、イタリア・ミラノで設立されたコーチビルダーです。その名を世界に知らしめたのは、他に類を見ない革新的な軽量構造「スーペルレッジェーラ」と、洗練された美しいデザインです。1966年に一旦活動を停止するものの、その技術と伝統は受け継がれ、2006年にはブランドが復活、現在も高級車デザインの世界で重要な役割を担っています。

創設とスーペルレッジェーラの誕生

トゥーリングの創業は、イソッタ・フラスキーニ社の元テストドライバーであり、プジョーのイタリア代理店も経営していたフェリーチェ・ビアンキ・アンデルローニによるものです。彼は友人と共にカロッツェリア・ファルコというコーチビルダーを買収、社名をカロッツェリア・トゥーリングと改名しました。

当初はアルファロメオやシトロエンといったメーカーとの取引からスタート。アンデルローニは単なるボディ製作にとどまらず、独自の自動車製造を目指し、様々な技術を取り入れました。その一つが、軽量フレーム構造のウェイマン方式のライセンス導入です。この技術は、後にトゥーリング独自の「スーペルレッジェーラ」構造へと発展していきます。

トゥーリングの技術革新は、1930年代の航空機製造技術を取り入れたことから始まりました。軽量な鋼管フレームに薄いアルミ板を被せる「スーペルレッジェーラ」構造は、軽量性だけでなく、柔軟なデザイン変更にも対応できるという大きな利点がありました。この構造は、高度な技術と熟練した職人技によって実現されました。

戦前・戦後の活躍と隆盛

第二次世界大戦前、トゥーリングはアルファロメオ、特に8C 2900のボディ製作で高い評価を得ます。空力性能に優れたBMW 328のボディもトゥーリングの手によるものです。

戦後、アンデルローニの息子、カルロ・フェリーチェ（通称チッチ）が経営を引き継ぎ、スーペルレッジェーラ構造のライセンス提供や、フェラーリ166クーペやスパイダーなどの名車のボディ製作を通じて、会社は急速に発展しました。1950年代後半には、ペガソ、アルファロメオ、アストンマーティン、ランチア、ランボルギーニ、マセラティなど、錚々たるメーカーの車体にトゥーリングの技術が用いられました。アメリカ合衆国のハドソン社との共同開発によるハドソン・イタリアも話題を呼びました。

時代の変化と終焉

しかし、多くの自動車メーカーが自社で車体製造を行うようになると、トゥーリングのような独立系コーチビルダーの需要は減っていきました。ピニンファリーナやイタルデザインといった大型コーチビルダーとの競争も激化しました。伝統的な手法と高い品質へのこだわりは、コスト増加に繋がり、経営は次第に苦しくなっていきました。1966年、カロッツェリア・トゥーリングは活動を停止しました。

復活と新たな挑戦

トゥーリングの技術とブランドは、カロッツェリア・マラッツィへと受け継がれ、ランボルギーニのボディ製造などに貢献しました。そして2006年、ゼータ・ヨーロッパ・グループとの協力により、カロッツェリア・トゥーリング・スーペルレッジェーラとしてブランドが復活。現在も、高度なデザイン力と技術力を駆使した高級車の開発・製造に携わっています。ヴィラ・デステ・コンクールでは、トゥーリング製のボディをまとった最もエレガントな車にカルロ・フェリーチェ・ビアンキ・アンデルローニ記念トロフィーが授与されるなど、その功績は現在も高く評価されています。

カロッツェリア・トゥーリングの歴史は、イタリアの自動車産業、そしてデザイン史において重要な位置を占めています。その技術と伝統は、現代においても受け継がれ、新たな形で進化を続けているのです。

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