ジェームズ・M・ブキャナン

ジェームズ・マギル・ブキャナン・ジュニア

概要

ジェームズ・マギル・ブキャナン・ジュニア（1919年10月3日 - 2013年1月9日）は、公共選択論を提唱したアメリカの著名な経済学者です。彼は1986年にノーベル経済学賞を受賞し、ヴァージニア学派を代表する思想家の一人として知られています。彼の理論は、経済学だけでなく政治学、公共政策においても広範な影響を及ぼしました。

生い立ちと学歴

ブキャナンはテネシー州マーフリーズボロで生まれました。1940年にミドルテネシー州立大学を卒業後、1941年にはテネシー大学から修士号を取得します。第二次世界大戦中はホノルルでニミッツ提督のスタッフとして勤務し、戦後の1948年にはシカゴ大学で博士号を取得しました。彼はその後、ヴァージニア大学やカリフォルニア大学ロサンゼルス校（UCLA）、ヴァージニア工科大学、そしてジョージ・メイソン大学で教鞭をとりました。

学問の業績

ブキャナンが提唱した公共選択論は、経済学の研究に新しい視点を提供し、伝統的な財政学の枠を超えて社会的選択と意思決定のメカニズムを考察するものでした。彼の著書『財政理論―民主主義過程の財政学』では、当時の財政理論が長年にわたり社会的選択のプロセスと乖離していたことを指摘し、選択の理論的基盤に新しい風を吹き込んだといわれています。

特に、彼は「ログローリング」の理論に詳しく、その徹底した分析を行いました。ログローリングは、政治家が互いに利害関係を調整しあいながら政策を決定する過程を指します。ブキャナンはこの過程が公的資源の無駄遣いを助長する可能性を示しました。

最大の業績は、ゴードン・タロックとの共著による『公共選択の理論−合意の経済論理』です。この著作は公共選択論の基礎となり、政治経済学の新しい研究領域を切り開きました。さらに、リチャード・E・ワーグナーとの共著『赤字財政の政治経済学―ケインズの政治的遺産』では、公共事業と税負担の意識の乖離が財政の悪化を招くことを論じました。

影響と評価

ブキャナンの研究は経済学界のみならず、世論や政治にも大きな影響を与えました。初めて彼の理論が正当に評価されるようになったのは、ノーベル賞受賞発表以降のことです。それまでは、多くの経済学者たちが彼を「愚痴っぽい変人」として評価していましたが、これによって彼は主流経済学の中でも注目される存在となりました。経済学者の石弘光は、ブキャナンの受賞は公共選択論に学問上の市民権を与えたと述べています。

主な著書

ブキャナンの著作は多数あり、公共選択論や財政学に関する重要な文献が含まれています。以下は彼の代表的な著書の一部です：

• - 『公共選択の理論——合意の経済論理』（共著：ゴードン・タロック）
• - 『財政理論——民主主義過程の財政学』
• - 『公共財の理論——公共財の需要と供給』
• - 『赤字財政の政治経済学——ケインズの政治的遺産』（共著：リチャード・E・ワーグナー）
• - 『倫理の経済学』

ブキャナンは93歳でその生涯を終えましたが、彼の理論や観点は今なお多くの研究者や政策立案者に影響を与えています。

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