ジキル博士とハイド氏 (1920年のヘイドン監督の映画)

1920年版『ジキル博士とハイド氏』：影に潜む恐怖

1920年は、ロバート・ルイス・スティーブンソンの小説『ジキル博士とハイド氏』を原作とする映画が3本も制作された年として知られています。その中の1本、チャールズ・J・ヘイドン監督による『ジキル博士とハイド氏』は、同時期に製作されたジョン・バリモア主演の『狂へる悪魔』に比べると、知名度や評価においてやや劣る作品ではありますが、それでもサイレント映画の歴史において重要な1作と言えるでしょう。

物語：善と悪の狭間で

この映画は、ジキル博士の恐ろしい変身を鮮やかに描きます。物語は、ジキル博士の執事が「ご主人様は地獄の使者と化してしまった！」と絶叫するシーンから始まります。変身したハイドは、鋭い牙をむき出し、乱れた髪をなびかせ、凶悪な姿で人々を恐怖に陥れます。彼は婦人の財布を盗むなど、卑劣な悪行を繰り返し、町を徘徊します。

やがて、ハイドの悪事は警察の捜査の網にかかり、逮捕・尋問の後、なんと電気椅子に繋がれるという事態に。この危機的状況の中で、ジキル博士は悪夢から覚めます。自宅の椅子に座って眠っていたことに気づき、「私は神を信じている。私の魂もここにある」と呟き、二度と危険な化学薬品を合成しないと誓うのです。このクライマックスシーンは、ジキル博士の罪悪感と、善への回帰への強い意志を象徴的に表現しています。

キャスト：名優たちの競演

主人公ジキル博士とハイド氏を演じるのは、シェルドン・ルイス。彼は、善と悪の両面を巧みに演じ分け、観客に強い印象を与えたことでしょう。その他、ラニョン博士役にアレックス・シャノン、ラニョン夫人役にドーラ・ミリス・アダムス、そしてバーニス・ラニョンを演じるグラディス・フィールドなど、当時の実力派俳優たちが脇を固めています。ハロルド・フォシェイ、レスリー・オースティンといった俳優陣も、それぞれ重要な役割を担い、作品に深みを与えています。

評価：忘れられた傑作？

他の同時期の作品に比べて評価が低いとされるこの映画ですが、それはサイレント映画特有の表現方法や、現代の観客の嗜好とのずれなども影響しているのかもしれません。しかしながら、この作品は、原作の持つダークな魅力を画面に映し出し、当時の観客に衝撃を与えたはずです。善悪の葛藤、人間の脆さ、そして恐怖といった普遍的なテーマを扱っている点において、この映画は今もなお、鑑賞する価値のある作品と言えるでしょう。特に、ジキルの変身シーンや、ハイドの悪行シーンは、サイレント映画ならではの表現力で、観客の想像力を掻き立て、恐怖を呼び起こす効果を持っていたに違いありません。

参考文献

Hardy, Phil, ed. (1995), The Overlook Film Encyclopedia, 3, Overlook Press, ISBN 0-87951-624-0

外部リンク

Dr. Jekyll and Mr. Hyde - IMDb (英語)
Dr. Jekyll and Mr. Hyde - オールムービー (英語)

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