ジダーノフ批判

ジダーノフ批判：ソ連芸術文化を揺るがせたイデオロギー的弾圧

1948年2月10日、ソ連共産党中央委員会書記アンドレイ・ジダーノフによって主導された「ジダーノフ批判」は、ソ連の文化・芸術界に衝撃を与えたイデオロギー的弾圧でした。この批判は、社会主義リアリズムに反するとして、多くの作曲家、作家、芸術家を糾弾するものでした。ジダーノフ批判は、スターリンの死後である1958年5月28日に公式に撤回されるまで、ソ連文化に10年間もの間、暗い影を落としたため、旧ソ連では「ジダーノフ時代」として記憶されています。

音楽界への弾圧

ジダーノフ批判の発端は、ヴァノ・ムラデリのオペラ『偉大なる友情』への非難でした。このオペラは、カフカス地方を舞台とした戦争を描いた作品でしたが、スターリンの怒りを買い、ジダーノフはこの機会を利用して、社会主義リアリズムに沿わないと見なされる作風の作曲家をまとめて糾弾しようとしました。

ムラデリへの非難は、皮肉にも、このオペラが大衆に人気があったという事実を無視したものでした。ジダーノフは、より抽象的で晦渋な作風を持つ作曲家を糾弾する口実として、ムラデリへの批判を巧みに利用したのです。

その後、プロコフィエフ、ミャスコフスキー、ハチャトゥリアン、カバレフスキーなど、多くの著名な作曲家が批判の対象となりました。しかし、真の標的はショスタコーヴィチであったと推測する説もあり、他の作曲家への批判は、ショスタコーヴィチへの攻撃を目立たなくするための見せかけだった可能性も指摘されています。

1948年4月には、ソ連作曲家連盟の特別会議においてジダーノフ批判が追認され、批判を受けた作曲家たちは、自己批判を余儀なくされました。

文学界への弾圧

音楽界だけでなく、文学界もジダーノフ批判の標的となりました。1946年には、諷刺作家ミハイル・ゾーシチェンコと詩人アンナ・アフマートワが、同様の攻撃を受けました。彼らの作品は、社会主義リアリズムの規範に反するとして非難され、作品発表の機会を奪われました。

ジダーノフ批判の背景と影響

ジダーノフ批判は、スターリン体制下の厳しいイデオロギー的統制を反映したものでした。ソ連政府は、芸術文化を完全に掌握し、社会主義イデオロギーの宣伝に利用しようとしていました。ジダーノフ批判は、芸術家の創造性を著しく阻害し、多くの芸術家に大きな苦痛を与えました。また、この批判は、ソ連芸術文化の多様性を損ない、画一的な社会主義リアリズムの作品しか許されない息苦しい状況を作り出しました。

ジダーノフ批判の終焉とその後

スターリンの死後、1958年にジダーノフ批判は撤回されました。しかし、この批判がソ連の芸術文化に与えた傷跡は深く、その影響は、その後も長く尾を引きました。ジダーノフ批判は、芸術と政治の関係、イデオロギーと表現の自由という重要な問題を浮き彫りにする歴史的事件として、現在も研究されています。

関連文献

『党と文化問題』（国民文庫、除村吉太郎、蔵原惟人訳、1954年）

関連項目

ティホン・フレンニコフ
* プラウダ批判

もう一度検索