ジナイーダ・ギッピウス

ジナイーダ・ギッピウス（1869年11月20日 - 1945年9月9日）は、ロシア帝国出身の詩人、宗教思想家、批評家として知られています。彼女は、19世紀末から20世紀初頭にかけてのロシア象徴主義運動において重要な役割を果たしました。ドイツ系の家系に生まれ、幼少期から様々な都市を転々とする生活を送りました。この経験が、彼女の感受性を育み、詩作への情熱を掻き立てる原動力となりました。

ギッピウスは、少女時代から詩作を始め、ニーチェ、ナドソン、ドストエフスキーといった思想家や文学者に傾倒しました。1888年、コーカサスで詩人のディミトリー・メレシュコフスキーと出会い、翌年に結婚。二人は生涯にわたり、思想的、文学的なパートナーとして活動を共にしました。彼らはサンクトペテルブルクに移住し、文学サークルに加入。やがて、デカダン派サロンを主宰し、多くの象徴派文化人が集う場所となりました。

ギッピウスは、夫とともに新しい宗教運動に参画し、1901年には宗教哲学協会を設立。信仰と知性の融合を提唱し、人間の精神と肉体の解放を目指しました。彼女の宗教観は、既存の宗教観にとらわれず、独自の視点から神と人間、そして世界のあり方を考察したものでした。

1904年、ギッピウスは10年以上にわたって書き溜めた詩をまとめた処女詩集を発表し、高い評価を得ました。ニーチェの思想に影響を受けた彼女の詩は、諦観の中に生の意思を垣間見せ、光に満ちた事物への憧憬、そして果てしない希望を情熱的に謳い上げました。1910年には、第二詩集を発表。散文作品では、短編小説を多く発表し、1911年には初の長編小説を、1916年には傑作と評される戯曲「緑の輪」を発表しました。また、アントン・クライニーというペンネームでエッセイも執筆しています。

1905年のロシア第一革命に衝撃を受けたギッピウスは、フランスに渡りますが、現地の宗教的無関心に失望し、帰国。1917年の革命後、ポーランドを経てフランスに亡命しました。1941年に夫が亡くなった後、1945年にパリで生涯を閉じました。

ギッピウスの作品は、詩作において高い評価を受けています。彼女の詩は、初期ロシア象徴主義の先駆けとして、形而上的な世界観、ナルシズム、そして魂の奥底にある暗闇を表現しました。そこから湧き上がる、神への叫びは、絶望的な地平に力強く響き渡ります。

主な著作として、1904年刊行の「Собрание стихотворений 1889—1903.」と1910年刊行の「Собрание стихотворений 1903—1909.」があげられます。彼女の作品は、ロシア象徴主義文学を理解する上で不可欠なものです。

もう一度検索