ディミトリー・メレシュコフスキー

ディミトリー・セルギェーヴィチ・メレシュコフスキー：ロシア象徴主義の巨匠とその波乱の生涯

ディミトリー・セルギェーヴィチ・メレシュコフスキー（1866年～1941年）は、20世紀初頭のロシアを代表する詩人にして思想家でした。彼は象徴主義運動の草創期を担い、その思想はロシア文学に多大な影響を与えました。貴族階級の家に生まれた彼は、ペテルブルク大学で歴史学と哲学を学び、複数の言語に精通する博学ぶりを示しました。

華麗なるサロンと象徴主義への貢献

1888年、メレシュコフスキーは詩人のジナイーダ・ギッピウスと出会い、翌年に結婚。ふたりはペテルブルクにサロンを開き、当時のロシア知識人社会の中心地となりました。このサロンは「頽廃主義の巣窟」と呼ばれるほど、活気に満ち溢れていました。メレシュコフスキーは、1893年に発表した評論『現代ロシア文学の衰退と新思潮』で、ロシア象徴主義の基本理念を初めて明確に示し、その発展に大きく貢献しました。

宗教的探求と新たな運動

1900年以降、メレシュコフスキーとギッピウスは、ディミトリー・フィロソフォフやワシーリー・ロザノフらと共に、「ボゴイスカテリ（神を求める者たち）」と呼ばれる宗教的覚醒運動を主導しました。彼らは独自の霊的キリスト教を提唱し、正教会と対話しようと試みましたが、1903年にはロシア正教聖務会院長官コンスタンチン・ポベドノスツェフによってその活動は禁止されてしまいます。

それでも、彼らは宗教哲学協会を設立し、雑誌『新しい径』を発行して活動を続けました。しかし、ポベドノスツェフによる弾圧の後、読者層が減少。『新しい径』の発行は中断されると、彼らはロシア各地を巡り、さまざまな宗教集団と交流を深めました。

歴史小説三部作と1905年革命

メレシュコフスキーは、1894年から1905年にかけて、『神々の死』（ユリアヌス帝論）、『神々の復活』（レオナルド・ダ・ヴィンチを題材）、『ピョートル大帝と皇太子アレクセイ』からなる歴史小説三部作を発表しました。これらの作品は彼の博識を反映していますが、地下出版の雑誌からは批判を受けることとなります。

1905年、日露戦争におけるロシアの敗北をきっかけに1905年革命が勃発しました。メレシュコフスキーは、この革命を信仰改革の前触れと捉え、自らをその預言者と位置づけました。特にパリ滞在中は、革命を熱烈に支持し、多くの詩作を発表しています。

晩年と評価

十月革命後、メレシュコフスキーは再びパリに移住し、ボルシェヴィキを激しく批判しました。彼は、1914年から1915年、そして1930年から1937年にかけて、10回にわたりノーベル文学賞の候補にノミネートされたものの、ヒトラー支持の姿勢が受賞を阻むこととなりました。

メレシュコフスキーの著作は多岐に渡り、歴史小説、宗教哲学、批評など、様々な分野に及んでいます。中でも『キリストと反キリスト』、『反キリストの王国』、『トルストイとドストエフスキー』などは、彼の思想を理解する上で重要な作品です。彼の生涯は、ロシアの激動の時代と不可分であり、彼の作品は、その時代を理解する上で貴重な資料となっています。彼の多様な業績と、激動の時代を生きた彼の複雑な思想は、今もなお多くの研究者を引きつけています。

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