デカダン派

デカダン派とは

デカダン派（フランス語: décadentisme）は、19世紀後半のヨーロッパ文学、特にフランス文学において、退廃的な美意識を追求した文学運動です。当初は敵対的な批評家によって「退廃」という侮蔑的な意味合いで用いられた言葉でしたが、後にこの言葉は、既存の社会規範や価値観への反抗、そして従来のロマン主義に対する反発を示すものとして、一部の作家や芸術家たちによって受け入れられました。

歴史的背景

「デカダンス」という概念自体は18世紀にまで遡りますが、19世紀に入ると、ヴィクトル・ユーゴーを中心とするロマン主義に対する反発として、デジレ・ニザールなどの批評家がこの言葉を用いるようになりました。当初はネガティブな意味合いが強かったものの、テオフィル・ゴーティエやシャルル・ボードレールといったロマン主義後期の作家たちは、この言葉を誇りや、自らが「陳腐」とみなす「進歩」への拒絶の象徴として捉え始めました。

1880年代になると、フランス文学の一部のグループが自らを「デカダン」と称するようになり、この運動が明確な形を帯びてきました。ジョリス＝カルル・ユイスマンスの小説『さかしま』は、初期のデカダン作品として知られています。しかし、この栄誉をシャルル・ボードレールの諸作品に与える意見も存在します。

イギリスにおいては、オスカー・ワイルドがデカダン派の代表的な人物として知られています。

デカダン派は、文学史的にはロマン主義とモダニズムの過渡期に位置づけられており、その後の文学運動に大きな影響を与えました。

象徴主義との関係

デカダン派は、しばしば象徴主義運動と混同されます。象徴主義運動が始まった当初、一部の若い作家たちは新聞で「デカダン」と嘲笑的に書かれたこともありました。ジャン・モレアスの『象徴派宣言』（1886年）は、この嘲笑に対する反論として発表されました。多くの作家がこの言葉を避けようとした一方で、中には自らを受け入れた作家もいました。象徴主義とデカダン派は、重なり合う部分も多いものの、基本的には別個の文学運動とされています。

特徴とテーマ

デカダン派の作品は、退廃的な美、人工的なものへの愛着、社会の病理に対する関心、そして耽美的な快楽の追求といったテーマを特徴としています。これらのテーマは、既存の社会規範やモラルに対する反抗心や、現実世界への不満を反映していると考えられます。

主なデカダン派の芸術家

フランス
ポール・ヴェルレーヌ（詩人）
ジュール・バルベー・ドールヴィイ（小説家）
シャルル・ボードレール（詩人）
オクターヴ・ミルボー（小説家・劇作家）
ジョリス＝カルル・ユイスマンス（小説家）
ラシルド（劇作家）
アルチュール・ランボー（詩人）
ロートレアモン伯爵（詩人）

ベルギー
ジョルジュ・ローデンバッハ（詩人・小説家）
フェリシアン・ロップス（画家）

イギリス
M・P・シール（小説家）
アーサー・シモンズ（詩人）
アーネスト・ダウスン（詩人）
オーブリー・ビアズリー（画家）
マックス・ビアボウム（小説家・画家）
アーサー・マッケン（小説家）
オスカー・ワイルド（劇作家・小説家・詩人）

イタリア
ガブリエーレ・ダンヌンツィオ（詩人・小説家・劇作家）

オーストリア
フランツ・フォン・バイロス（画家・イラストレーター）

セルビア
Vojislav Ilić（詩人）

チェコ
Karel Hlaváček（詩人）

ルーマニア
Mateiu Caragiale（詩人）

ポーランド
アントニ・ランゲ（詩人）

ノルウェー
アルネ・ガルボルグ（作家）

エストニア
エリック・ステンボック（詩人）

参考文献

マリオ・プラーツ　『肉体と死と悪魔　ロマンティック・アゴニー』　倉智恒夫ほか訳、国書刊行会、新版2000年
* フィリップ・ジュリアン　『世紀末の夢　象徴派芸術』　杉本秀太郎訳、白水社、新版2004年

デカダン派は、文学、美術、音楽など、幅広い分野に影響を与えた重要な運動であり、その退廃的で耽美的な美意識は、現代においてもなお、多くの人々を魅了し続けています。

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