ジム・フィックス

ジェイムス・フィックスとは

ジェイムス・フラー・フィックス（James Fuller Fixx, 1932年4月23日 - 1984年7月20日）は、アメリカ合衆国のノンフィクション作家であり、特に1970年代後半のジョギングブームを牽引した人物として知られています。彼の主著『奇蹟のランニング』（原題：The Complete Book of Running）は世界的なベストセラーとなり、多くの人々にランニングの健康効果を啓蒙しましたが、皮肉にもフィックス自身がジョギング中に心臓発作で急逝したことは、当時大きな衝撃を与えました。

生い立ち

フィックスは1932年にニューヨーク市で生まれました。父親のカルヴァン・フィックスは「タイム」誌の編集者でした。ジェイムスはオハイオ州のオーバリン大学で学び、1957年に卒業。その後はいくつかの出版社で雑誌編集者としてキャリアを積みました。彼はまた、高IQ団体のメンサの会員でもありました。

ジョギングへの傾倒と執筆活動

フィックスがジョギングを本格的に始めたのは35歳の時、1967年のことでした。当時の彼は体重が約97kgあり、1日にタバコを2箱吸うという不健康な生活習慣を送っていました。しかし、ジョギングを始めてからの10年間で、彼は劇的な変化を遂げます。約27kgの減量に成功し、喫煙もやめたのです。

このような自身の経験に基づき、フィックスはジョギングの健康上の利点を強く主張するようになります。そして1977年、『奇蹟のランニング』を出版。この本は、ジョギングが寿命を延ばし、心身の健康を向上させると力説し、当時のランニングムーブメントに大きな影響を与えました。彼の筋肉質な脚が表紙を飾ったこの本は100万部を超えるベストセラーとなり、フィックスは一躍時の人となります。彼はその後もジョギングに関する著書を複数出版し、1980年には続編となる『再び奇蹟のランニング』を、1982年には『Jackpot！』を刊行しました。

突然の死

1984年7月20日、フィックスはヴァーモント州ハードウィックの州道でジョギングをしていた最中に、突然倒れました。当時52歳でした。倒れているところを発見された後、蘇生が試みられましたが叶わず、病院に搬送された後に死亡が確認されました。

彼の死因は、ヴァーモント州の主任検視官による検死の結果、重度のアテローム性動脈硬化症であることが判明しました。心臓に血液を送る冠状動脈のうち、3本すべてに深刻な閉塞が見られ、最も狭い部分は95%も詰まっていたのです。フィックスの父親も心臓発作を経験し、それが原因で亡くなっていることから、遺伝的な要因も指摘されました。

運動生理学者のケネス・クーパーは、フィックスの医療記録や検死資料、家族や友人への聞き取りに基づき、彼が亡くなった背景にある危険因子を分析しました。クーパーは、遺伝的な素因に加え、フィックスがジョギングを始める前の肥満、喫煙習慣、仕事上のストレス、離婚といった過去の不健康な生活習慣やストレスが、心臓病の進行に関与していた可能性を指摘しました。

フィックス自身は、規則正しい激しい運動が寿命を延ばし、心臓を強くすると強く信じ、亡くなる直前まで週に約129kmも走っていたと息子のジョンは語っています。しかし、彼の突然の死は、運動中の心臓突然死が珍しいものではないという現実を突きつけました。精強な運動能力が運動中の死を防ぐ保証はないことが、彼の例を通して広く認識されることとなりました。

フィックスの死は、専門家やマスコミの間でも議論を呼びました。運動生理学者のジェイク・エメット教授は、フィックスの死はランニングが冠状動脈疾患を予防するどころか、突然死のリスクを排除しないことを世界に示したと述べました。ワシントン・ポスト紙は、彼の死は「運動を義務的に行ったところで、心疾患の猛威から身を守る効果はない」ことを示唆していると論じました。

死後の影響

フィックスの死後も、彼のジョギングがもたらす心理的・身体的効果に関する著作が出版されました。彼の業績を称え、ヴァーモント州ハードウィックの記念公園には記念碑が建てられています。また、彼の皮肉な最期はコメディアンのビル・ヒックスやデニス・リアリー、そしてオーストラリアのバンド、ザ・フォーブスによってパフォーマンスや楽曲の題材としても言及されています。

ジェイムス・フィックスの生涯は、ジョギングを健康習慣として世に広める上で計り知れない貢献をしましたが、同時に運動と心血管疾患リスクの複雑な関係性についても、世に問いかける結果となりました。

主な著書

Games for the Super-Intelligent (1972)
More Games for the Super-Intelligent (1976)
The Complete Book of Running (1977) - 『奇蹟のランニング』
Solve It! by James F. Fixx (1978)
Jim Fixx's Second Book of Running (1980) - 『再び奇跡のランニング』
Jackpot! (1982)
Maximum Sports Performance: How to Achieve Your Full Potential in Speed, Endurance, Strength and Coordination (1985, 没後出版)

日本語訳

『奇蹟のランニング その効用と方法の完全報告』（クイックフォックス社, 1978）
『奇跡のランニング だれにでもできる心と身体の健康法 (CBS/Sony books)』（CBS・ソニー出版, 1981）
『再び奇跡のランニング スポーツ科学が実証した走る健康法 (CBS/Sony books)』（CBS・ソニー出版, 1981）

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