ジャイルズ・ギルバート・スコット

ジャイルズ・ギルバート・スコット：20世紀イギリス建築を彩る巨匠

ジャイルズ・ギルバート・スコット(1880-1960)は、20世紀イギリスを代表する建築家の一人です。彼の名は、リヴァプール大聖堂の壮麗な姿、そして街角に今も立つ赤い電話ボックスを通じて、多くの人々の記憶に刻まれています。スコットは、折衷主義建築を巧みに操り、伝統と現代性を融合させた独自の建築スタイルを確立しました。その生涯と作品は、イギリス建築史に大きな足跡を残しています。

名門建築家一族の系譜と波乱の幼少期

スコットは、名門建築家一族に生まれました。彼の祖父は、ビクトリア朝を代表する建築家ジョージ・ギルバート・スコット。父や叔父、そして兄弟や息子たちも建築の道に進んだ、まさに建築一家でした。しかし、スコットの幼少期は平穏ではありませんでした。3歳の時、父が精神障害を患い入院。以降は母に育てられ、父親と過ごす時間は限られていました。それでも、彼は父が設計したゴシック建築に深い感銘を受け、その影響は後の作品にも色濃く反映されています。カトリック系の学校で教育を受け、信仰深い一面も持ち合わせていました。

リヴァプール大聖堂：若き建築家の挑戦

19歳で建築事務所に入所したスコットは、22歳の若さでリヴァプール大聖堂の設計競技に参加。数々の著名建築家を差し置いて、そのデザイン案は1位に選ばれました。イングランド国教会の建物をカトリック系の教育を受けた建築家が設計することは異例でしたが、リヴァプール主教の承認を得て、スコットは設計を担当することに。しかし、若く経験不足な彼を支えるため、設計競技の選考委員であったジョージ・F・ボドリーが協力することになります。

1904年に着工した大聖堂の建設は、ボドリーの死去や資金難、第一次世界大戦による労働力不足などで、長期に渡る難工事となりました。当初はゴシック・リヴァイヴァル様式を基調としたデザインでしたが、1910年には当時の流行を取り入れ、モダニズム建築の要素も加えられました。結果として生まれたのは、伝統と現代が調和した折衷主義建築。装飾は簡略化されながらも、威厳と荘厳さを兼ね備えた独特の空間が生まれました。建設中、スコットはブリタニア・アデルフィ・ホテルの受付をしていたルイーズと出会い、結婚しました。

1924年、内陣が完成し、聖別の儀式が行われました。しかし、大聖堂の完全な竣工は、スコットの死後も続き、1978年になってようやく完成しました。リヴァプール大聖堂の設計は、スコットの建築家としての地位を確固たるものにし、ジョージ5世からナイトの称号を授与されるなど、多くの栄誉に輝きました。

赤い電話ボックス：街のシンボル

スコットの代表作として忘れてはならないのが、イギリスの街のシンボルともいえる赤い電話ボックスです。鋳鉄製の電話ボックスは、GPO（現ポスト・オフィス・リミテッド）からの依頼により設計されました。簡潔で美しいデザインは、人々の日常に溶け込み、イギリスの風景の一部として親しまれています。

建築界への貢献とその後

1933年には王立英国建築家協会の会長に就任。1944年にはジョージ5世からメリット勲章を受賞。1949年にはアルバート・メダルを受賞するなど、建築界への貢献は高く評価されました。ケンブリッジ大学図書館など、数々の重要な建物を設計し、イギリスの建築界に大きな影響を与えたスコットは、1960年、79歳でこの世を去りました。しかし、彼の設計した建物は、現在も人々の生活に寄り添い、イギリスの建築史における彼の偉大な功績を物語っています。

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