ジャイルズ・ファーナビー

ジャイルズ・ファーナビー（Giles Farnaby）は、16世紀末から17世紀初頭にかけて生きたイングランドの作曲家です。1560年頃にコーンウォール地方トゥルーロで生まれ、1640年11月にはロンドンでその生涯を終えました。彼の父トマスは学者であり、学校教師として生計を立てていました。音楽への関心は、ヴァージナル製作に携わっていた従兄弟ニコラスの影響を受けて芽生えたとされています。その後、彼は学問を深め、1592年には権威あるオックスフォード大学で音楽学士の学位を得ています。

ファーナビーの作品の中で最も広く知られているのは、鍵盤楽器ヴァージナルのために書かれたものです。当時のイングランドで広く親しまれたこの楽器のために、彼は数多くの魅力的な小品を生み出しました。中でも、鍵盤音楽史において非常に重要な文献である『フィッツウィリアム・ヴァージナル・ブック』に収められた52曲の小品群は、彼の代表作として特に名高いです。これらの作品は、舞曲、性格的小品、変奏曲など、多様なスタイルを含んでおり、当時のイングランドにおける鍵盤音楽の豊かな表現を示しています。

ヴァージナル曲以外にも、彼は声楽曲の分野でも作品を残しています。当時のイタリアから伝わった形式であるマドリガルやカンツォネッタを手掛けたほか、信仰的な詩篇のための音楽も作曲しています。これらの声楽曲は、彼の音楽的多様性を示していますが、今日ではヴァージナル曲ほどの知名度はありません。

ファーナビーの音楽は、特に20世紀以降に再評価が進みました。現代の演奏家や聴衆にとって、彼の音楽は主に『フィッツウィリアム・ヴァージナル・ブック』を通じて親しまれています。さらに、彼のヴァージナル曲は、他の楽器編成へと編曲されることで、新たな生命を吹き込まれています。特に、著名な金管アンサンブルであるフィリップ・ジョーンズ・ブラス・アンサンブルのために、エルガー・ハワースがヴァージナル・ブックから6曲を選んで編曲した金管五重奏のための組曲『ファンシーズ、トイズ・アンド・ドリームズ（Fancies, Toyes, and Dreams、空想・おもちゃ・夢）』は非常に有名です。この組曲によって、彼の美しいメロディーや独特の和声が、ブラスアンサンブルの響きを通して多くの音楽ファンに届けられています。この組曲に含まれる6曲は以下の通りです。

The Old Spagnoletta（古いスパニオレッタ）
His Rest（休息）
Tell mee Daphne（話してダフネ）
A Toye（おもちゃ）
His Dreame（夢）
The New Sa-hoo（新しいサフー）

また、ジャイルズ・ファーナビーの息子リチャードも父親の跡を継ぎ、作曲家として活動しました。リチャードの作品は4曲が現存しており、父子二代にわたって音楽の世界に足跡を残したことになります。

ジャイルズ・ファーナビーは、エリザベス朝からジェームズ朝にかけてのイングランド音楽、特に鍵盤音楽の発展において重要な役割を果たした作曲家の一人です。彼の生み出したヴァージナルのための小品群は、当時の人々の日常生活や感情を反映したかのような親しみやすさと同時に、作曲技法の巧みさも兼ね備えています。今日においても、彼の音楽は失われることなく、演奏され、聴き継がれています。

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