エルガー・ハワース

エルガー・ハワース（Elgar Howarth, 1935年11月4日 - 2025年1月）は、イギリスが生んだ類稀なる音楽家です。指揮者、作曲家、そして卓越したトランペット奏者として、生涯にわたり音楽界に貢献しました。スタッフォードシャーのカノックで生を受けたハワースは、1950年代にマンチェスター大学とマンチェスター王立音楽院で研鑽を積みました。この地で彼は、ハリソン・バートウィッスル、アレクサンダー・ゲール、ピーター・マックスウェル・デイヴィス、ジョン・オグドンといった同世代の俊英たちと共に、「マンチェスター楽派」と称される新しい音楽の潮流を形成しました。

指揮者としての軌跡

ハワースは、世界各国の主要オーケストラの指揮台に立ち、その多様なレパートリーで聴衆を魅了しました。特にオペラ指揮者としての評価は高く、1985年から1988年にかけてオペラ・ノースの首席客演指揮者を務め、後年にはミュージック・アドヴァイザーとしても関わりました。現代音楽への深い理解と探求心も特筆すべき点で、ヤニス・クセナキスの難解な作品、《シナファイ》《アウロラ》《アンティクトン》といった楽曲の解釈・演奏に定評がありました。オペラの分野では、1962年にコヴェントリーでマイケル・ティペットのオペラ《プリアモス王》の初演を成功に導いたのを皮切りに、多くの重要な作品の初演を手がけました。ジェルジ・リゲティの革新的なオペラ《ル・グラン・マカーブル》を1978年に初演した際には、作曲家本人の許可を得て「死者のミステリー」の編作も行っています。また、盟友ハリソン・バートウィッスルの代表的なオペラ、《オルフェウスの仮面》、《Yan Tan Tethera》、《ガウェイン》、《The Second Mrs Kong》といった4作品全てを初演するなど、同時代の作曲家たちの創作活動を強力に支えました。

作曲家としての功績

自らも優れたトランペット奏者であった経験を活かし、ハワースは主に金管楽器のための作品を中心に創作活動を行いました。彼の作品は、金管楽器特有の響きや可能性を最大限に引き出すことに成功しています。スウェーデンの名トランペット奏者であるホーカン・ハーデンベルガーは、彼の作品のうち《コルネット協奏曲》、《カント》、《カプリッチョ》を含むいくつかの楽曲を初演し、その魅力を世界に広めました。ブラス・バンドの盛んな環境で育ったハワースは、この編成に対しても深い愛情と関心を持ち続けました。彼はブラス・バンドのための現代的なレパートリーを豊かにすることに大きく寄与し、その作品はグライムソープ・コリアリー・バンドやEikanger-Bjørsvik bandといった著名なバンドによって数多く録音されています。彼の作曲作品の写しは、イースト・アングリア大学音楽部門に収められており、研究者や後進の演奏家たちの重要な資料となっています。

トランペット奏者としての活動

ハワースの音楽家としてのキャリアは、トランペット奏者として始まりました。ロイヤル・オペラ・ハウス管弦楽団で活躍した後、ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団では首席奏者としてオーケストラのサウンドを支えました。また、室内楽の分野でも重要な役割を果たし、フィリップ・ジョーンズ・ブラス・アンサンブルに所属し、そこでも数多くの編曲や指揮を手がけるなど多角的に貢献しました。さらにロンドン・シンフォニエッタといった現代音楽を専門とするアンサンブルにも参加するなど、幅広い活動を展開しました。特筆すべきユニークなエピソードとしては、世界的に有名なロックバンド、ビートルズの楽曲「マジカル・ミステリー・ツアー」のレコーディングにトランペット奏者として参加していたことが挙げられます。

エルガー・ハワースは、指揮、作曲、演奏という三つの分野で卓越した才能を発揮し、2025年1月13日に89歳で逝去したことが伝えられました。彼の多岐にわたる活動は、20世紀後半から21世紀初頭にかけての英国音楽界において、特に金管音楽や現代オペラ、そして新しいアンサンブルの探求において、計り知れない影響と遺産を残しました。

もう一度検索