ジャグ・バンド

ジャグ・バンドとは

ジャグ・バンド（jug band）は、20世紀初頭にアメリカ合衆国南部で生まれた独自の音楽スタイル、およびその演奏を行うバンドの形態を指します。名前の由来となっている「ジャグ（jug）」とは、ウイスキーなどの飲み物を貯蔵するための瓶のことです。この瓶は、口に息を吹き込むことで、低音域を担うユニークな管楽器として用いられました。バンドにジャグ奏者（「ブロワー」と呼ばれることもあります）が加わることが多かったためにこの名がついたと考えられていますが、必ずしもジャグ奏者がいることが必須の条件ではありません。実際、現在も昔も、ジャグ奏者を含まないジャグ・バンドは数多く存在します。

楽器と編成

ジャグ・バンドの編成は非常に多様性に富んでいますが、最も特徴的なのは、身の回りにある日用品を改造して作った手製の楽器を多く用いる点です。ジャグの他にも、洗濯板（ウォッシュボード）、ノコギリ（ミュージカルソー）、ティッシュペーパーや櫛を使った簡易なカズー、洗濯桶とモップで作ったベース（ウォッシュタブ・ベース）、あるいはスプーンなどが打楽器として使われます。これらの手製楽器に加え、ハーモニカ、バンジョー、ギター、マンドリン、アコーディオンといった一般的な楽器も組み合わされることが一般的です。

演奏される音楽は、伝統的なジャズ、ブルース、カントリー、ブルーグラスといったジャンルを基調とすることが多い傾向にあります。

歴史

ジャグ・バンドの発祥地は、ケンタッキー州ルイビルであるとされています。この地で活動を始めた初期のバンドとしては、1900年に結成されたサイ・アンダーソン・ジャグバンドが挙げられます。

ジャグ・バンドとして初の商業レコーディングは、1924年9月に行われたとされています。ルイビル出身のシンガー、サラ・マーティンが、ジャグ奏者のアール・マクドナルドと組んで録音を残しました。

この頃から、ジャグ・バンドの人気はルイビルから他の地域へと広がり、特にテネシー州メンフィスで多くの新たなバンドが誕生しました。メンフィスを代表するジャグ・バンドとして、ガス・キャノン率いるキャノンズ・ジャグ・ストンパーズや、ウィル・シェイド率いるメンフィス・ジャグ・バンドなどが知られています。他にも、メンフィス・ミニーやファリー・ルイスといったミュージシャンがジャグ・バンド的なスタイルを取り入れ、メンフィスの音楽シーンを賑わせました。

1920年代から1930年代にかけて、ルイビルとメンフィスを中心に人気を博したジャグ・バンドですが、1930年代後半になると、より都会的な音楽スタイルが主流となるにつれて、その勢いは次第に衰退していきました。

第二次世界大戦後、イギリスでは1950年代にロニー・ドネガンのヒット曲をきっかけに「スキッフル」という音楽ブームが起こります。スキッフルは、一般的にジャグ奏者を含まないジャグ・バンドの形式を指す言葉として定着しました。

一方、本場アメリカでは、1950年代後半から1960年代にかけてのフォーク・リバイバルの流れの中で、ジャグ・バンドも再び注目されるようになります。若い世代を中心にジャグ・バンド・リバイバルが発生し、ボストンを拠点とするジム・クウェスキン・ジャグ・バンドや、ジョン・セバスチャンらが参加したニューヨークのイーヴン・ダズン・ジャグ・バンドなどが登場しました。これらのバンドには、後にシンガーとして成功するマリア・マルダーも若き日に参加しています。また、ルーフトップ・シンガーズの楽曲「ウォーク・ライト・イン」は、ジャグ・バンドの曲としては唯一、全米チャートでナンバー1を獲得するヒットとなりました。このリバイバル期には、アラバマ州で隠遁生活を送っていたガス・キャノンが再発見され、再びレコーディングを行う機会を得ました。さらに、ロックバンド、グレイトフル・デッドのギタリストとして知られるジェリー・ガルシアも、キャリアの初期にはジャグ・バンドで活動していました。

主なバンド・ミュージシャン

歴史の中で活躍した代表的なジャグ・バンドや関連ミュージシャンには、以下のような存在がいます。

イーヴン・ダズン・ジャグ・バンド
ガス・キャノンズ・ジャグ・ストンパーズ
ジム・クエスキン・ジャグ・バンド
ディキシーランド・ジャグ・ブロワーズ
メンフィス・ジャグ・バンド
ルーフトップ・シンガーズ

日本での状況

日本では欧米ほどの広がりはないものの、一部の愛好家によってジャグ・バンドの演奏が続けられており、全国にバンドが存在します。2002年からは、横浜市で「横浜ジャグバンド・フェスティバル」が毎年開催されています。このフェスティバルには、日本各地からバンドが集まり、ジャグ・バンド音楽の普及に貢献しています。

手製のユニークな楽器と、多様なルーツを持つ音楽スタイルが融合したジャグ・バンドは、現在も世界中で多くの人々を魅了しています。

参考文献
* 『ブルース・ギター・ブック【保存版】アコースティック・ブルース&ジャグ・バンドの今昔』 (シンコー・ミュージック)

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