ジャコウネズミ

ジャコウネズミ（Suncus murinus）

ジャコウネズミは、トガリネズミ科ジャコウネズミ属に分類される哺乳類です。その名の通り、体側にあるジャコウ腺から特有の匂いを放ちます。

分布

本来はインドから東南アジア、台湾にかけて分布していましたが、人為的な移入によってアフリカ東部やマダガスカル、ニューギニア、グアムなど、広範囲に分布を広げています。日本においては、長崎県、鹿児島県、そして南西諸島に生息が確認されています。長崎県や鹿児島県の個体群は帰化種とされていますが、かつてはドブネズミと同程度に見られたにもかかわらず、現在は姿を消しており、絶滅した可能性も指摘されています。

南西諸島の個体群は自然分布と考えられていますが、古い時代に船舶によって移入されたという説もあります。沖縄本島では現在も生息が確認されていますが、各島での詳細な分布状況は不明です。水納島でも1980年頃に姿が見られなくなったことから、何らかの要因による急速な絶滅の可能性が懸念されています。

生息環境

サバナ、森林、農耕地、人家など、多様な環境に適応して生息しています。

形態

頭胴長は約12.4-13.7cm、尾長は約6.8-8.5cm、体重は30-80g程度です。オスの方がメスよりも大型になる傾向があります。吻端は尖っており、尾は太くて短く、まばらに毛が生えています。

生態

食性は肉食性の強い雑食性で、昆虫類、節足動物、ミミズなどを主に食べますが、植物質も摂取します。動作はあまり機敏ではありません。夜行性で、繁殖形態は胎生です。一度に3-6匹の幼体を産み、子育ての際には幼体が親や他の幼体の尾の基部を咥えて数珠繋ぎになって移動する「キャラバン行動」が見られます。

亜種

日本に生息する個体を亜種リュウキュウジャコウネズミ（Suncus murinus temmincki）とする説があります。これは、インドやスリランカに生息するジャコウネズミに比べて体色が濃いことが特徴とされています。しかし、亜種を認めないという見解もあります。

人間との関係

ジャコウネズミは、実験動物としても利用されています。イヌやネコは体が大きく、ウサギやラット、マウスは嘔吐しないという問題があるため、小型で薬物や揺さぶりによって嘔吐を誘発できるジャコウネズミが、嘔吐反射の研究に用いられるようになりました。ネズミの仲間ではないことを強調するため、「スンクス」と呼ばれることもあります。肝硬変の実験でエタノールを投与したスンクスが嘔吐したことが、応用されるきっかけとなりました。

台湾では人家の近くによく見られ、「銭鼠」と呼ばれています。2013年には、捕獲された個体から狂犬病ウイルスが検出されるという初の事例がありましたが、その後の報告はありません。

保全状況

IUCNレッドリストでは、LEAST CONCERN（軽度懸念）に分類されています。しかし、日本では長崎県版レッドデータブックで絶滅危惧IA類、沖縄県版レッドデータブックで情報不足と評価されており、地域によっては絶滅の危機に瀕している可能性があります。

各地方言名

沖縄諸島: ビーチャー
宮古諸島: ザカ
奄美諸島: ザーコン

参考文献

阿部永監修, 阿部永・石井信夫・伊藤徹魯・金子之史・前田喜四雄・三浦慎悟・米田政明著, 財団法人自然環境研究センター編 『日本の哺乳類【改訂2版】』 東海大学出版会, 2008年, 16頁, ISBN 978-4-486-01802-5.
* 伊澤雅子 「ジャコウネズミ」 『改訂・沖縄県の絶滅のおそれのある野生生物（動物編）-レッドデータおきなわ-』, 沖縄県文化環境部自然保護課編, 2005年, 38-39頁.

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