ジャコメッティ 最後の肖像

『ジャコメッティ 最後の肖像』：天才の創造と人間ドラマ

2017年公開のアメリカ合衆国とイギリス合作映画『ジャコメッティ 最後の肖像』は、1964年のパリを舞台に、彫刻家アルベルト・ジャコメッティと作家ジェームズ・ロードの出会いと、そこから生まれる人間ドラマを描いた作品です。ジェームズ・ロードの著書『ジャコメッティの肖像』を原作とし、スタンリー・トゥッチ監督、ジェフリー・ラッシュとアーミー・ハマーという豪華キャストを迎え、高い評価を得ています。

物語は、偶然の再会から始まります。旧友であるジャコメッティとロード。ジャコメッティは突如、ロードに自身の肖像画のモデルになってほしいと依頼します。数日で終わる予定だった制作は、予想外の展開を見せます。完成はいつになるか分からない状況に、ロードは苛立ちを覚えながらも、天才の創作過程を間近で目撃できる喜びを感じ始めます。

映画では、ジャコメッティの制作過程が克明に描かれています。粘土をこねくり回し、削り、形を模索する彼の姿は、並々ならぬ情熱と苦悩、そして芸術家としての揺るぎない信念を私たちに伝えます。一方、モデルであるロードは、ジャコメッティの個性的な性格や、制作における妥協の無さに戸惑いながらも、次第に彼への理解を深めていきます。二人の間には、友情、葛藤、そして微妙な緊張感が漂います。

ジェフリー・ラッシュは、老練の演技力でジャコメッティの複雑な内面を見事に表現しています。繊細さと激情、孤独と優しさ、天才と凡人の狭間で揺れる彼の魂を、見る者に深く刻み込みます。一方、アーミー・ハマーは、冷静な観察眼とユーモアのセンスを備えたロードを好演。ジャコメッティという圧倒的な存在感を持つ人物と対峙しながら、自身の個性と視点も明確に示しています。

脇を固めるキャストも、それぞれのキャラクターを魅力的に演じきっています。ジャコメッティの愛人でモデルのカロリーヌ、弟で助手のディエゴ、美術商であるピエール・マティス、そしてジャコメッティの妻アネット。彼らは、ジャコメッティを取り巻く環境と、彼の人間関係を多角的に浮かび上がらせます。

映画全体を通して、ジャコメッティの肖像画制作という行為は、単なる芸術活動にとどまりません。それは、自己と他者との向き合い、時間と空間との戦い、そして生と死、存在の根源に迫る深い探求の過程なのです。

『ジャコメッティ 最後の肖像』は、美術史に名を残す巨匠の創造の過程だけでなく、人間としての彼の姿、そして彼を取り巻く人々との関係性にも焦点を当てた、感動的な人間ドラマです。傑作と呼ぶにふさわしい、完成度の高い作品と言えるでしょう。Rotten Tomatoesでの批評家支持率73％、Metacriticでの加重平均値71/100という高い評価も納得のいく、見応えのある映画です。

もう一度検索