ジャック・オブ・ロンドン

ジャック・オブ・ロンドン：伝統と革新が織りなすゲームの世界

1795年、フランス系ユグノーの子孫であるトーマス・ジャックによって創業されたジャック・オブ・ロンドン社は、イギリスを代表する玩具メーカーとして、その名を世界に知らしめています。かつてはジョン・ジャック・オブ・ロンドン、ジャック・アンド・サンという社名で知られていましたが、長い歴史の中で、アナログゲームやスポーツ用品を製造する老舗企業として発展を遂げ、現在も同族経営による伝統を守り続けています。

戦時下の知恵と工夫：脱獄を助けたチェスセット

第二次世界大戦中、イギリス軍の情報部MI9は、捕虜の脱獄を支援するために、巧妙な仕掛けを施した様々なアイテムをイギリスとアメリカ軍の捕虜に提供しました。その中でも、ジャック・オブ・ロンドン社の木製スタントンチェスセットは、重要な役割を果たしました。

一見普通のチェスセットに見えますが、駒の箱の内壁には、地図、通貨、文書、のこぎり、コンパスといった脱獄に必要な道具が巧みに隠されていました。大きなチェス盤もまた、偽造文書や地図、通貨などの隠匿に最適なツールだったのです。さらに、チェスの駒そのものもくり抜かれており、中にはメッセージやコンパス、地図、身分を偽装するための染料などが入れられていました。駒の土台は、左回転ネジでねじ込まれており、容易に外れないよう工夫されていました。この知恵と工夫に満ちたチェスセットは、多くの捕虜の脱出を助けたと伝えられています。

世界的ヒットを生み出した名作ゲームの数々

ジャック・オブ・ロンドン社は、数々の世界的に有名なゲームの生みの親でもあります。

チェス： 1849年にナサニエル・クックによってデザインされたスタントンチェスセットは、イギリスのチェスチャンピオン、ハワード・スタントンにちなんで名付けられ、国際標準として広く受け入れられています。ジャック・オブ・ロンドン社はこのセットを世界で初めて販売した企業として知られています。
リバーシ（オセロ）： 現在ではオセロとして親しまれるこのゲームは、1888年にジャック・オブ・ロンドン社によって世界で初めて販売されました。
蛇と梯子： インド発祥の伝統ゲームである蛇と梯子は、1888年にジャック・オブ・ロンドン社がイギリスで販売を開始し、世界的なブームとなりました。現在私たちが親しむすごろくの原型ともなった、歴史的なゲームです。
ルー ドゥー： インドの伝統ゲームであるパチーシを現代風にアレンジしたゲームで、1897年に英国で特許を取得しました。
家族合わせ： 1851年に開発された、長く愛されている人気のカードゲームです。
ティドリー・ウィンクス： 1888年に販売を開始した、子供から大人まで楽しめるゲームです。
クロッケー： このゲームの普及に大きく貢献し、1857年、1860年、1864年にはルールの改訂版を作成しました。
時計ゴルフ： 19世紀半ばにこのゲームの普及に貢献したと主張しています。
卓球（ピンポン）： ゴシマという名称で販売されたのち、ピンポンとして広く知られるようになりました。
ショーブ・ハペニー： イギリスで広く楽しまれているパブゲームです。

伝統と革新の継承

2000年にはケント州イーデンブリッジに移転し、新たな時代へと歩みを進めるジャック・オブ・ロンドン社。創業から200年以上にわたり、伝統を守りながらも常に革新を追求し続ける同社の姿勢は、人々を魅了するゲームを生み出し続ける原動力となっています。これからも、その歴史に彩られたゲームの数々が、世界中の人々に喜びと興奮を与え続けることでしょう。

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