ジャック・デ・ボー

ジャック・デ・ボー（Jacques des Baux）は、14世紀にナポリ王国で活躍したフランス系の貴族です。彼はターラント公（1374年 - 1381年）、アカイア公（1381年 - 1383年）、そして名目上のラテン帝国皇帝（1374年 - 1383年）の地位を称しました。彼の家系は、南フランスのプロヴァンス地方を治めていたボー家の末裔であり、ナポリ王国に移住した一族に属していました。そのため、イタリア語名ではジャコモ・デル・バルツォ（Giacomo Del Balzo）とも呼ばれます。

生涯

ジャックは、アンドリア公フランチェスコ1世・デル・バルツォと、ターラント公フィリッポ1世の娘であるマルゲリータの間に生まれました。彼の祖先は1266年にプロヴァンス伯シャルル・ダンジューに従ってナポリに移住し、現地の貴族社会に溶け込みました。ジャックの家系は王室と親しい関係にありましたが、ジョヴァンナ1世女王の治世は不安定であり、1374年には父フランチェスコが女王の怒りを買い、国外追放処分を受けています。

ジャックは母親を通じてアンジュー王家の血を引いており、1374年に叔父であるターラント公フィリッポ2世が亡くなると、ターラント公領と名目上のラテン帝国皇帝の地位を継承しました。また、アカイア公領もジョヴァンナ1世女王が相続していましたが、ジャックはこれを認めず、女王に対して公領の明け渡しを要求しました。この紛争解決のため、ジャックは1380年にナバラ傭兵団を雇い、アテネ公国などペロポネソス半島の各地を荒廃させました。ジョヴァンナ1世が暗殺される頃、ジャックはアカイア公国の貴族たちの支持を得て公位に就きます。しかし、この公位の正当性を巡って、ナポリの新王カルロ3世や、ジョヴァンナ1世の最後の夫であるオットー公との間で争うことになります。

アカイア公の座を手に入れた直後、ジャックは亡くなり、ターラント大聖堂に埋葬されました。1382年に又従姉妹にあたるアニェーゼと結婚しましたが、子供はいませんでした。同腹の妹アントーニアはシチリア王フェデリーコ3世の王妃となりましたが、彼女も子供を授かることなく亡くなっています。

ジャックは亡くなる際、フランス王シャルル5世の弟であるルイ・ダンジューを後継者に指名しましたが、ルイの相続権は血縁的な根拠がないとして多方面から疑問視されました。その結果、アカイア公領はナバラ傭兵団に占領され、ターラント公領は親族のライモンド・オルシーニが相続を主張しました。実体のないラテン皇帝の称号のみがアンジュー公爵家に残されましたが、アンジュー家は誰もこの名目上の称号を名乗ろうとはせず、ラテン皇帝の称号はジャックの死とともに消滅しました。

ジャック・デ・ボーの生涯は、中世の複雑な政治状況と貴族社会の権力闘争を映し出す鏡と言えるでしょう。彼の死後、領地や称号がめまぐるしく移り変わったことも、当時の混乱した時代を象徴しています。

参考文献

S. Fodale: Del Balzo (de Baux), Giacomo. In: Massimiliano Pavan (Hrsg.): Dizionario Biografico degli Italiani (DBI), Band 36 (DeFornari - Della Fonte), Istituto della Enciclopedia Italiana, Rom 1988, S. 313–315 (italienisch).
Peter Lock: The Franks in the Aegean. 1204–1500. Longman, London u. a. 1995, ISBN 0-582-05140-1.

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