ジャンヌ・ダルク復権裁判

ジャンヌ・ダルクの復権：25年越しの真実解明

1431年、百年戦争のさなか、イングランドに協力したブルゴーニュ公国によって捕らえられたジャンヌ・ダルクは、異端と魔女の罪で火刑に処されました。しかし、彼女の死後、フランス王国とカトリック教会は、その有罪判決の是非を問う、長く複雑な復権裁判（無効化裁判）を開始します。この裁判は、単なる再審ではなく、当時の政治状況や教会の権力闘争、そしてジャンヌを取り巻いた人々の思惑が複雑に絡み合った歴史的大事件でした。

裁判開始までの道のり：様々な障害

ジャンヌ処刑後、悲痛の思いに沈んだシャルル7世は復讐を誓いますが、イングランドの支配はフランス北部を覆い、フランス政府は戦況を打開できずにいました。ジャンヌの有罪判決を覆すための再審は、いくつかの大きな障害に直面します。

まず、パリはイングランドとブルゴーニュ公国の連合軍に占領されており、ルーアン（裁判地）もイングランドの支配下でした。パリ大学は有罪判決裁判に参加しており、再審に反対する立場でした。歴史家のレジーヌ・ペルヌーは、イングランドがルーアンを支配していた間は、関係書類を掌握していたため、都合の良い説明が可能であったと指摘しています。まさに、勝者の歴史観が覆されるかどうかの戦いだったのです。

さらに、ルーアン大司教ラウール・ルーセルは、イングランド支持者であり、ジャンヌの裁判にも関わっていました。彼の協力を得ることは、再審にとって大きな課題でした。

王と教会の動き：ブイエの予備調査とデストゥートヴィル枢機卿の介入

シャルル7世は1450年、パリ大学の神学者ギヨーム・ブイエに予備調査を命じます。ブイエは証人尋問を行い、ジャンヌへの憎悪やイングランドの策略を指摘する証言を得ますが、裁判官の一人であるジャン・ボーペールは、ジャンヌに批判的な証言をしました。この予備調査は、公式な裁判ではありませんでしたが、後の正式な裁判に繋がる重要な一歩でした。

1452年、ノルマンディー出身のデストゥートヴィル枢機卿が教皇特使としてフランスに派遣され、ジャンヌの復権に積極的に関わります。彼は、自身の家族がイングランド占領で土地を失ったこと、そして王の権威回復に繋がることなどから、復権を強く望んでいました。デストゥートヴィルは、異端審問総監ジャン・ブレアルに正式な裁判開始を要請し、予備審査が行われました。

しかし、ルーアン大司教や当時の教皇代理など、重要な証人を尋問することができなかった点が課題として残りました。

教皇の承認と裁判開始：数々の困難を乗り越えて

1454年、ブレアルは教皇ニコラウス5世に復権裁判開始を請願し、後継の教皇カリストゥス3世がこれを承認しました。ジャンヌの家族も裁判の原告となり、様々な関係者とともに、1455年11月7日、パリのノートルダム大聖堂で裁判が始まりました。

この裁判には、ヨーロッパ各地の聖職者が参加し、115人の証人が証言しました。証言の内容は、ジャンヌの純潔性や誠実さ、勇気を示唆するものでした。中には、かつてジャンヌを裁いた者も含まれており、その証言は歴史的価値が高いものです。

復権判決：歴史的転換点

1456年6月、審理が終結し、ブレアルは全ての記録を精査しました。同年7月7日、裁判所はジャンヌの有罪判決の無効を宣言します。これは、ジャンヌの潔白を示すだけでなく、当時の政治状況や教会の権力構造の変化を反映した、歴史的な転換点でした。

この復権裁判は、1909年のジャンヌの列福、1920年の列聖へと続く重要な基盤となりました。ジャンヌ・ダルクの生涯と死、そして復権裁判は、百年戦争という激動の時代における、信仰、正義、そして政治の複雑な絡み合いを私たちに示唆しているのです。

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