ジャンムー・カシミール連邦直轄領

ジャンムー・カシミール連邦直轄領は、インド北部に位置する連邦直轄領であり、2019年10月31日にジャンムー・カシミール州の分割によって誕生しました。この地域は、その前身である州を含め、「ジャム・カシミール」と表記されることも多く、歴史的、政治的に複雑な背景を持つ場所です。

歴史的背景

第二次世界大戦後、イギリス領[[インド帝国]]が解体される過程で、ヒンドゥー教徒が多数派のインドと、イスラム教徒が多数派のパキスタンに分離独立しました。この時、カシミール地方を統治していた藩王ハリ・シングはインドへの帰属を選択し、ジャンムー・カシミール藩王国はインド領のジャンムー・カシミール州となりました。しかし、住民の多くがイスラム教徒であったため、パキスタンも領有権を主張し、第一次印パ戦争が勃発。その後も、カルギル紛争などを含め、カシミールを巡る紛争は21世紀まで続いています。

1949年、インド憲法第370条によってジャンムー・カシミール州には特別自治権が認められていましたが、2019年8月5日、インド政府はこの特別自治権を剥奪する大統領令を公布し、通信制限を実施しました。同時に、ジャンムー・カシミール州再編成法案が国会に提出され、インド人民党の賛成多数により可決。これに対し、住民の抗議デモやパキスタンからの非難が起こりました。そして、同年10月31日、ジャンムー・カシミール州は廃止され、新たにラダック連邦直轄領とジャンムー・カシミール連邦直轄領に分割されました。

自治権剥奪と州の分割に対しては、旧ジャンムー・カシミール州側から異議申し立てが行われましたが、2023年12月11日、インド最高裁判所は憲法370条を一時的な措置と判断し、中央政府の決定を支持。2024年9月30日までに地方選挙を実施するよう命じました。その地方議会選挙は、2024年9月18日から地域別に3回に分けて実施され、10月8日に開票されました。選挙の結果、ナレンドラ・モディ首相の与党であるインド人民党は29議席にとどまり、かつて州政権を担っていた地域政党やインド国民会議派などの野党連合が49議席を獲得しました。多くの政党が自治権回復を訴えましたが、同地の議会には、自治権を復活させる法的権限はありません。モディ政権が直轄領化した背景には、テロ対策や地域開発だけでなく、連邦法適用における州議会の承認を不要にすることが目的だったとの見方もあります。

地理

ジャンムー・カシミールには、カシミール渓谷をはじめ、タウィ渓谷、シェナブ渓谷、プンチュ渓谷、シンド渓谷、リダー渓谷など、多様な渓谷が存在します。カシミール渓谷は幅約100キロメートル、面積約1万5520平方キロメートル、平均標高は約1,850メートルです。北東部はヒマラヤ山脈によってチベット高原と隔てられ、南部から西部にかけては平均標高約3,000メートルのピール・パンジャル山脈が、ヒンドゥスターン平野とカシミール渓谷を隔てています。ジェルム川、インダス川、ラービー川、タウィ川、シェナブ川などがこの地域を流れています。

地方行政区分

ジャンムー・カシミール連邦直轄領は、ジャンムー地方とカシミール渓谷地方の2つの主要地域に分かれ、さらに20の県に細分化されています。

主要都市

夏季の州都はシュリーナガルで、カシミール地方最大の都市です。冬季の州都はジャンムー市です。

シュリーナガル（Srinagar）：夏季の州都
ジャンムー（Jammu）：冬季の州都

その他

この地域は、歴史的な紛争、政治的変革、地理的多様性など、多くの側面を持つ地域であり、今後もその動向が注目されます。

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