ジャージー規則

ジャージー規則：サラブレッドの純血を守る試みとその影響

ジャージー規則とは、イギリスのジョッキークラブがかつて定めていたサラブレッドの定義に関する規則です。1949年に撤廃されるまで、イギリス競馬界に大きな影響を与えました。規則の名前は、当時のジョッキークラブ会長の名前に由来します。

この規則は、サラブレッドの血統を厳格に規定したものでした。具体的には、その馬のすべての先祖がジェネラルスタッドブック（サラブレッドの血統登録簿）に記載されていることを条件としていました。ジェネラルスタッドブックに記載されていない馬は、サラブレッドとして認められず、登録もされませんでした。これは、サラブレッドの定義の中でも最も厳しい条件でした。

ジャージー規則は、1909年にジェネラルスタッドブック第21巻に記載され、1913年の第22巻ではさらに厳格化されました。サラブレッドの定義が初めて定められたのは1901年（第19巻）であり、その時点では「父母8代に渡ってサラブレッドとしての先祖関係を証明できること」という、現在とほぼ同様の定義でした。しかし、ジャージー規則はそれよりもはるかに厳格な基準を設けました。

この規則制定の背景には、アメリカからイギリスへのサラブレッドの大量輸入がありました。19世紀後半から20世紀初頭にかけて、アメリカのサラブレッドは目覚ましい発展を遂げ、イギリスの伝統あるクラシック競走でも勝利を収めるようになりました。このアメリカ産サラブレッドの台頭は、イギリス競馬界に衝撃を与えました。

イギリス側は、アメリカ産サラブレッドの中には、ジェネラルスタッドブックに登録されていない馬の血を引くものや、南北戦争などで血統記録が失われた馬の血を引くものが含まれている可能性を懸念しました。サラブレッドの純血性を維持するため、アメリカ産サラブレッドの流入を制限しようとしたのです。ジャージー規則は、そのような懸念から生まれたと言えるでしょう。

ジャージー規則の影響を受けた最も有名なサラブレッドは、1914年の英ダービー優勝馬ダーバーです。ダーバーは、父方の祖父がセントサイモンというイギリスの名馬でしたが、母方からアメリカ血統のレキシントンを受け継いでいました。ジャージー規則の下では、ダーバーのようなアメリカ血統を持つ馬は、サラブレッドとして認められない可能性がありました。

1920年代には、アメリカの禁酒法により、多くのサラブレッドがヨーロッパに流出しました。しかし、イギリスではジャージー規則により、これらのサラブレッドの多くが認められませんでした。それでも、サラブレッド系種としてイギリス国内で競走することは禁止されていなかったため、ダーバーはダービーに勝利することができました。

ジャージー規則の影響は、イギリス競馬界のレベル低下にもつながりました。アメリカ産サラブレッドの血統を使えなかったイギリスは、アメリカとイギリスの血統を自由に使えるフランスに比べて、競争力を失っていったのです。特に、フランスの優れたサラブレッド、トウルビヨンが登場してからは、フランスの馬がイギリスの大レースを次々と制覇するようになりました。

アメリカとフランスからの強い抗議もあったことから、1949年、ジャージー規則はついに撤廃されました。この規則は、サラブレッドの純血性を守ろうとする試みでしたが、結果的にはイギリス競馬界に大きな影響を与え、国際的な競争力を低下させるという皮肉な結果をもたらしました。ジャージー規則は、競馬史における重要な出来事の一つとして、今も語り継がれています。

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