ジュリア (ビートルズの曲)

ジュリア：ジョン・レノンの母への鎮魂歌、そして新たな恋への予感

1968年、ビートルズのアルバム『ザ・ビートルズ』（通称ホワイト・アルバム）に収録された「ジュリア」。この曲は、ジョン・レノンが5歳の時に亡くした母、ジュリア・レノンへの深い哀悼の念を込めた作品として知られています。

母ジュリアとの思い出と悲劇

レノンは5歳の時、両親の離婚により母と離れ、叔母ミミのもとで育てられました。その後、ミミの夫の死をきっかけに、母との関係を再開。ロックンロールへの共通の情熱を分かち合い、音楽への道を歩む後押しを受けました。しかし、1958年、ジュリアは交通事故で急逝。この出来事はレノンに深い傷跡を残し、「人生最悪の経験」と語っています。

インドでの創作と多様なインスピレーション

「ジュリア」は、レノンがインドのリシケーシュで超越瞑想の修行中に創作されました。アコースティックギターとボーカルのみのシンプルな構成は、現地で学んだスリーフィンガー奏法によるものです。歌詞には、母ジュリアへの想いはもちろん、当時交際を始めたオノ・ヨーコへのメッセージも含まれていると言われています。オノからのメッセージをヒントに書かれた「silent cloud, touch me」というフレーズは、レノンのオノへの想いを象徴的に表しています。また、歌詞の一部はレバノンの詩人ハリール・ジブラーンの詩を彷彿とさせ、レノンの詩的な感性が際立っています。

レコーディング：シンプルなアレンジへのこだわり

レコーディングは1968年10月13日に行われ、アルバム完成直前の最後の仕上げとなりました。初期のデモ音源には、ポール・マッカートニーのハーモニーが含まれていましたが、最終的にはレノンのソロ演奏によるシンプルなアレンジが採用されました。これは、レノン自身の意図であり、「ジュリア」の持つ静謐で内省的な雰囲気を際立たせる上で重要な要素となっています。

リリースと評価：時を超えて愛される名曲

「ジュリア」は『ザ・ビートルズ』のB面に収録され、その後、シングル盤のB面曲や様々なコンピレーションアルバムにも収録されました。2006年には、シルク・ドゥ・ソレイユのショー『LOVE』のサウンドトラックにも使用されています。近年では、『インデペンデント』誌がホワイトアルバム発売50周年を記念して行った選曲で上位にランクインするなど、今もなお高い評価を受けています。

普遍的な母への愛と新たな始まり

「ジュリア」は、単なる追悼歌にとどまらず、母への深い愛情、そして新たな恋への希望を織り交ぜた、複雑で奥深い楽曲です。シンプルなメロディーと歌詞の中に、レノンの揺れ動く感情が繊細に表現されており、多くのリスナーの心を掴んで離しません。その普遍的なテーマと、レノンの卓越した音楽性によって、「ジュリア」はビートルズの楽曲の中でも特に高く評価されている名曲の一つとなっています。

楽曲の構成と特徴

・アコースティックギターとボーカルのみのシンプルな構成
・スリーフィンガー奏法による演奏
・Dキーで演奏（カポタスト使用でCキー相当）
・母ジュリアへの追悼と、オノ・ヨーコへの想いを込めた歌詞
・ハリール・ジブラーンの詩的表現の影響

カバーバージョン

1994年には、アメリカのロックバンド「フィッシュ」がアルバム『ザ・ビートルズ』全曲カバーライブで演奏し、その音源はライブアルバムとしてリリースされました。

参考文献

・Mark Hertsgaard, A Day in the Life: The Music and Artistry of the Beatles
・Kevin Howlett, ザ・ビートルズ (ホワイト・アルバム)〈スーパー・デラックス・エディション〉 ブックレット
・Mark Lewisohn, The Beatles Recording Sessions
・Mark Wallgren, The Beatles on Record

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