ジュール・リシャール

ジュール・リシャール（Jules Richard）は、かつてフランスに存在した、ステレオカメラを専門に製造していたメーカーです。創業者であるジュール・リシャールは、「レンズは固定焦点」「シャッターはギロチン式」「絞りは孔絞り」であるべきという独自の信念を持っていました。この原則を貫き、同社の製品は、その堅牢さと高い描写性能で知られています。

ただし、例外として、ピント合わせ機構にヘリコイド式を採用したヴェラスコープが存在します。これは、同社の製品の中では珍しい例です。レンズは、エ・クラウス社から供給されたテッサータイプが主に使用されていました。

日本においては、大正時代に東京の神田にあった佐藤サンエス堂が、ジュール・リシャール社の製品を取り扱っていました。当時の日本では、高級カメラとして知られていたと考えられます。

主な製品

オントスコープ（Ontoscope）
1900年頃から製造された、同社の高級ステレオカメラです。45×107mm判のフォーマットを採用しており、レンズにはクラウス・テッサーが搭載されていました。シャッターは、エアポンプ式の6速ギロチンシャッターが採用されています。また、乾板撮り枠、フィルム撮り枠のほか、ロールフィルムホルダーや12枚用乾板マガジンなど、多様なアクセサリーが用意されていました。高い描写性能と堅牢な作りで、当時のプロカメラマンや愛好家から支持されました。

ヴェラスコープ（Verascope）
こちらも1900年頃から製造された、高級ステレオカメラです。45×107mm判と、60×130mm判の2種類のフォーマットが存在しました。特筆すべきは、同社の製品の中で唯一、ピント合わせ機構にヘリコイド式を採用している点です。レンズはクラウス・テッサーで、シャッターはエアポンプ式の6速ギロチンシャッターです。オントスコープ同様に、乾板撮り枠、フィルム撮り枠、ロールフィルムホルダー、12枚用乾板マガジンなど、豊富なアクセサリーが利用可能でした。

グリフォスコープI（Glyphoscope I）
1905年頃に製造されたモデルです。ボディは木製で革張り仕上げとなっており、45×107mm判のフォーマットを採用しています。このモデルの大きな特徴は、非常に優れたレンズが搭載されていることと、レンズとシャッターを外すことでそのままステレオスコープ（立体視用のビューワー）として利用できる点です。その利便性と高い描写性能から、非常に高い人気を博し、曽根春翠堂のトキオスコープや、ドイツのプラスコープ、ペコスコープなど、類似製品が各社から発売されました。

グリフォスコープII（Glyptrhoscope II）
グリフォスコープIの後継モデルです。ボディの材質が練り物製に変更されています。

オメオ（Le Homeos）
1913年に製造されたモデルで、当時の日本では「ホメオス」と呼ばれていました。レンズはクラウス・テッサー28mmF4.5で、固定焦点です。シャッターは1/150秒から1/10秒までの速度をカバーするギロチン式で、35mmフィルムを使用します。

ジュール・リシャールのカメラは、その独創的な設計と高い品質から、現在でも多くのコレクターから愛されています。特に、グリフォスコープは、そのユニークな構造から、高い人気を誇ります。

参考文献

カメラレビュー別冊『クラシックカメラ専科』P114 昭和53年10月30日発行 朝日ソノラマ

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