曽根春翠堂

曽根春翠堂は、1902年に東京・神田で創業した日本のカメラメーカーです。その歴史は、レンズの輸入販売から始まりました。子会社である東京カメラワークスを通じて、フランスから輸入したレンズを「テスター（Testar）」という名称で販売していましたが、カール・ツァイス社から「テッサー」との名称が類似しているという指摘を受け、1927年に「モデラー（Modelar）」と改名しました。この一件は、当時のカメラ業界における商標権の重要性を示す出来事でした。

曽根春翠堂は、初期にはボックスカメラやステレオカメラ、レフレックスカメラなど、多様なカメラを製造しました。以下に代表的な製品を紹介します。

アダム（Adam 、1918年発売）
手札四裁（4×5cm）判のボックスカメラです。シャッター機構がなく、レンズキャップの着脱によって露光時間を調整するシンプルな構造が特徴です。この簡素な設計は、当時のカメラの基本形とも言えるものでした。

スイート（1918年発売）
こちらも手札四裁判のカメラで、その後の手札四裁判を「スイート判」と呼ぶきっかけになったほどの人気を博しました。このカメラの成功は、手札四裁判というフォーマットが広く認知される上で重要な役割を果たしました。

スピード・レフレックス（Speed Reflex 、1919年発売）
栗林写真工業（後のペトリカメラ）が製造したレフレックスカメラで、アトム判、名刺判、手札判のバリエーションがありました。当時、海外で人気だったソロントン・ピッカードのルビーレフレックスやマリオンのソホ・レフレックス、ホートンのエンサイン・レフレックスといったカメラに影響を受けたデザインが特徴的です。

トキオスコープ（Tokioscope 、1921年発売）
フランスのジュール・リシャールが製造したステレオカメラ「グリフォスコープ（Glyphoscope ）」を模倣したカメラです。手札判を横に切った4×10.5cm判で、立体写真を楽しむことができました。

アポロ（1923年発売）
大名刺判の高級ハンドカメラです。当時のハイエンドモデルとして、その性能とデザインが注目されました。

セクレット（Secrette 、1924年発売）
ブロックのフィジオグラフやコンテッサ・ネッテルのアルグス、エルゴといったカメラを参考にしたカメラで、レンズは固定焦点の単玉でした。手札四裁判とアトム判のモデルがありました。

アルファ（1920年前後）
手札四裁判のカメラとして、一定の評価を得ていたようです。

モナーク（1920年前後）
ツァイス・イコンのゾンネットを模倣したアトム判のカメラです。当時の人気モデルの影響が見られます。

コンベックス（1920年前後）
一眼レフカメラで、写真乾板を使用しました。イタリア製のミュラーレフレックスのコピー品であり、当時の海外製品の影響を受けていたことがわかります。

曽根春翠堂のカメラ製品は、当時の最新技術とデザインを取り入れながら、独自の工夫が凝らされており、日本の写真史において重要な役割を果たしました。同社の製品は、現在でもコレクターの間で人気があり、その歴史的価値が高く評価されています。

出典

参考文献
『クラシックカメラ専科』朝日ソノラマ
北野邦雄『現代カメラ新書No.3、世界の珍品カメラ』朝日ソノラマ
外部リンク
『幕末・明治の写真師』総覧　曽根真文

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