テッサー

テッサー（Tessar）：カール・ツァイスが誇る名レンズ

テッサーは、ドイツのカール・ツァイスによって開発された単焦点写真レンズであり、その構造の名称でもあります。1902年の発表以来、カール・ツァイスを代表するレンズの一つとして、世界中の写真家から愛されてきました。

開発の歴史

テッサーは、1902年4月にパウル・ルドルフがエルンスト・ヴァンデルスレプの協力を得て考案しました。発表当初のF値はF6.3でしたが、その後、ヴァンデルスレプによってF4.5、ウィリー・ウォルター・メルテによってF3.5、さらにはF2.8まで大口径化されました。カール・ツァイスの分類では、F6.3のテッサーはシリーズIIB、製版用のアポテッサーはシリーズVIII、F4.5やF3.5の大口径テッサーはシリーズICとされました。

レンズの名称は、構成レンズ数が4枚であることに由来し、ギリシア語の4（τέσσαρες: Tessares）から名付けられました。

テッサーの構造と特徴

カール・ツァイスによれば、テッサーはウナーの前群とプロターの後群を合わせた3群4枚構成とされています。しかし、トリプレットレンズをベースに、後玉を凹凸2枚の貼り合わせレンズとしたものと捉えることもできます。特許上は、2群と3群の間に絞りが配置されています。

標準的な設計では、前玉から順にSK4、FL4、KzF2、SK10のガラスが使用されています。1群と2群の間に絞りがあるものは、エルンスト・ライツ（現ライカ）のエルマーにちなんで「エルマー型」と区別されることもありますが、エルマー銘でも2群と3群の間に絞りがあるものもあり、厳密な区別は難しいです。

テッサーは、当時広く利用されていたトリプレットなどの他の構成と比較して、歪曲の少なさ、ボケの美しさ、そして何よりもピント面のシャープさなど、驚異的な高画質が特徴です。カール・ツァイスは、「あなたのカメラの鷲の目」（Das Adlerauge Ihrer Kamera）というキャッチコピーでテッサーを宣伝し、実際に世界中の写真家からそのように呼ばれるようになりました。

テッサーの登場によって、「普通によく写るレンズ」が多くの人々の手に届くようになったと言われています。しかし、初期のテッサーは高級レンズであり、すぐに普及したわけではありません。テッサー構成のレンズが普及品となったのは、20世紀半ば以降のことです。これは、テッサーの発明から約50年の歳月を要しました。

一方で、テッサーには大口径化への限界もありました。20世紀半ば以降、レンズの設計および製造技術が進歩し、より複雑なレンズ構成がテッサー構成に取って代わるようになりました。しかし、テッサー構成はそのシンプルさゆえに、廉価で画質が良くコンパクトに収まるという特徴が評価され、21世紀に至っても特定の用途で利用され続けています。

生産とライセンス

テッサーは、開発直後からカール・ツァイスによって生産され、膨大なバリエーションが存在します。カール・ツァイス製のテッサーには個別の番号が振られており、製造年などを追跡することが可能です。

1903年には、アメリカのボシュロムがパテントを購入し、アメリカでの製造を開始しました。当時、コダックにはレンズ製造部門がなかったため、ボシュロムのテッサーはアメリカのカメラ界に貢献しました。また、イギリスのロッス、フランスのエ・クラウスでもライセンス生産が行われました。特にクラウス・テッサーは、「クラウス・ツァイス・テッサー」としてツァイスの銘も入れられ、フランス製の高級カメラの多くに装着されました。

第二次世界大戦後は、東西両方のツァイスで製造が行われました。当初、西側ではカール・ツァイスの子会社である「ツァイス・オプトン」で生産されましたが、当時の評判は低かったようです。しかし、「カール・ツァイス」銘に戻ってからは、再び高い評価を受けるようになりました。

テッサーの派生モデル

1919年には、ウィリー・ウォルター・メルテがテレテッサー（Tele-Tessar）を開発し、その後、多くの望遠レンズにこの名称が使用されました。また、色収差補正をアポクロマートにしたものは、テレアポテッサー（Tele-Apo-Tessar）の名称を使用します。さらにメルテは、明るく生物の撮影にも適したビオテッサー（Bio-Tessar）を1925年に開発しました。これらのレンズは、本来の3群4枚構成から逸脱することがあります。

テッサーの派生モデルは、レンズ構成枚数が少なく、レンズエレメント間の空間が比較的長いため、軽量コンパクトになるという特徴があります。ズームレンズのコンパクトな製品には、バリオテッサー銘が付けられるようになっています。

他社での派生

テッサーは、他のレンズメーカーにも多大な影響を与え、多くのコピーや類似レンズが製造されました。ライツのエルマー、フォクトレンダーのスコパー、コダックのエクターなど、当時のトップメーカーを代表するレンズの多くがテッサー構成でした。また、20世紀後半に大量生産された大衆向けコンパクトカメラでも、各社でテッサー構成のレンズが広く利用されました。

カール・ツァイス以外によって製造された3群4枚テッサー構成のレンズは、まとめてテッサータイプまたはテッサー型と呼ばれており、カール・ツァイス製テッサー以上に膨大な数が存在します。

製品一覧

以下に、テッサーが搭載された主な製品をまとめます。

コンタフレックス（Contaflex）シリーズ
コンタフレックス126（Contaflex126）
コンタレックス（Contarex）マウント
コンタックス（Contax）マウント
コンタックスRTS（CONTAX RTS）マウント
コンタックスN（CONTAX N）マウント
コンタックス645（CONTAX 645）マウント
コンタックス（CONTAX）デジタルカメラ
エクサクタマウント
グラフレックスXLシリーズ
ハッセルブラッド1600F/1000Fマウント
ハッセルブラッドVマウント
ハッセルブラッド特殊カメラ
ハイドスコープ
イコンタシリーズ
イコフレックスシリーズ
ロジテックWebカメラ（テッサー3.7mmF2）
M42マウント
ノキア携帯電話（テッサー5.6mmF2.8）
レチナ用
RMSマウント
ズイコー・マクロ20mmF3.5（テッサー構成）
ローライドスコープ
ローライフレックス6×6cm判二眼レフカメラ
ローライフレックスSL35/SL2000シリーズ
ローライ35シリーズ
ヤシカコンパクトカメラ/京セラコンパクトカメラ（テッサー35mmF3.5、35mmF2.8）
大判用/特殊用（Bテッサー、Cテッサー、アポテッサー、マクロ・テッサー、S-テッサー）

シリーズ別詳細

シリーズIIB（Bテッサー）

解像力が鋭く、包括角度も広いのが特徴です。
0番 - Bテッサー40mmF6.3
1番 - Bテッサー56mmF6.3
...
11番 - Bテッサー590mmF6.3

シリーズIC（Cテッサー）

Bテッサーと比較して明るく、高速シャッターが切れます。
1番 - テッサー50mmF3.5
1a番 - テッサー75mmF3.5
...
20番 - テッサー500mmF4.5

シリーズVIII（アポテッサー）

製版用プロセスレンズとして開発された、アポクロマート補正が施されたレンズです。
アポ・テッサー180mmF9
アポ・テッサー240mmF9
...
アポ・テッサーT 90cmF9

マクロ・テッサー

カール・ツァイス・イェーナ製。
マクロ・テッサー135mmF4.5

S-テッサー

接写用や産業用レンズです。Sはドイツ語の「Sonder」（英:Special）に由来します。
S-テッサー120mmF6.3
S-テッサー150mmF4.5
S-テッサー300mmF5.6

無印・テッサー

テッサー100mmF3.5
...
テレテッサー320mmF6.3

設計者

パウル・ルドルフ
エルンスト・ヴァンデルスレプ
* ウィリー・ウォルター・メルテ

まとめ

テッサーは、100年以上にわたり、写真レンズの歴史に大きな足跡を残してきた名レンズです。そのシンプルながらも優れた光学設計は、現代においても高く評価されており、多くのカメラファンに愛され続けています。

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