ジョギンズ

ジョギンズ：太古の息吹を今に伝える化石の宝庫

カナダ、ノバスコシア州のカンバーランド郡に位置するジョギンズは、かつて炭鉱町として栄えましたが、現在は石炭紀の化石産地として国際的な注目を集めています。その海岸線に露出する「ジョギンズ化石断崖」は、3億年前の地層が広がり、太古の生物たちの姿を今に伝える貴重な場所として、2008年にユネスコ世界遺産に登録されました。

歴史

ジョギンズはファンディ湾の一部であるカンバーランド湾に面しており、17世紀には地元のアカディア人入植者によって石炭が採掘されていました。本格的な商業採掘は1819年に始まり、採掘された石炭はセントジョンなどの市場へ出荷されました。19世紀後半には、ジェネラル・マイニング・アソシエーションによる大規模な工業化が進み、1870年代のインターコロニアル鉄道、1887年のジョギンズ鉄道の開通により、石炭の生産量は増大しました。ジョギンズ鉄道は、ジョギンズの鉱区からマッキャンのインターコロニアル本線までを結び、地域の発展に貢献しました。

1919年、ジョギンズは町に昇格しましたが、1949年頃から石炭採掘が衰退。人口流出と経済的な低迷が進みました。20世紀初頭には、近隣の発電所に石炭を供給していましたが、1950年代には発電所も老朽化。1958年のスプリングヒル炭鉱事故を機に、ジョギンズの炭鉱は閉鎖されました。その後、鉄道も1960年代初頭に廃止され、かつての賑わいは失われました。

ジョギンズ化石断崖

ジョギンズの最も顕著な特徴は、海岸沿いに露出した石炭紀（ペンシルベニア紀）の地層です。この「ジョギンズ化石断崖」は、潮の満ち引きによって常に新しい地層が露出し、そこから数多くの化石が発見されています。この一帯は、初期の爬虫類や有羊膜類が生息していた氾濫原の雨林だったと考えられています。

この崖が世界的に知られるようになったのは、19世紀半ば、地質学の父と呼ばれるチャールズ・ライエルが1842年と1852年に訪れたことがきっかけでした。彼は著書『地質学原理』で、ジョギンズの崖に露出する石炭紀の岩石と化石が世界最高水準であると評価しました。また、ジョギンズの化石記録は、チャールズ・ダーウィンの『種の起源』にも引用され、進化論論争の場でも取り上げられました。

ジョギンズの化石記録の多くは、ノバスコシアの地理学者ジョン・ウィリアム・ドーソンによって発見されました。ライエルは、ドーソンの友人であり師でもあり、二人は協力して研究を進めました。ドーソンのコレクションの多くは、現在マギル大学のレッドパス博物館に収蔵されています。

ライエルとドーソンは、1851年に直立した化石木の内部に埋まっていた四肢動物の化石を発見しました。その後の調査で、この化石が生物史上で最も初期の爬虫類であり、最古の有羊膜類でもあるヒュロノムス・リュエリであると特定されました。有羊膜類は、水から離れて繁殖できるようになった脊椎動物であり、爬虫類、恐竜、鳥類、哺乳類などが含まれます。この発見は、生物の進化過程を解明する上で非常に重要なものでした。

その他にも、ケロシンの発明者であるエイブラハム・ゲスナーや、カナダ地質調査のウィリアム・ローガンなど、多くの地質学者がジョギンズで調査を行いました。

世界遺産登録

2008年7月7日、ジョギンズ化石断崖を構成する15kmの海岸線が、ユネスコ世界遺産（自然遺産）に登録されました。

世界遺産登録基準は以下の通りです。

(8) 地球の歴史における主要な段階を示す顕著な例であること。これには、生物の記録、地形の発達における重要な地質学的過程、重要な地形的特徴、自然地理的特徴などが含まれる。

ジョギンズは、その独特な地質学的特徴と、太古の生命の記録を今に伝える貴重な化石群を通じて、地球の歴史を学ぶ上で欠かせない場所となっています。

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