ジョセフ・パクストン

サー・ジョセフ・パクストン：庭園と建築の革新者

サー・ジョセフ・パクストン（1803年8月3日 - 1865年6月8日）は、イギリスの造園家、建築家、政治家として、19世紀に多大な影響を与えました。彼の業績は多岐にわたり、庭園設計、建築、植物栽培など、様々な分野で革新的な貢献をしています。

生涯と初期のキャリア

パクストンは農夫の三男として生まれ、15歳から庭師としてのキャリアをスタートさせました。いくつかの貴族の庭園で経験を積み、1825年には第6代デヴォンシャー公爵ウィリアム・キャヴェンディッシュに才能を見出され、1826年にチャッツワースの主任庭師に任命されました。公爵の命を受け、フランスやイタリアへ珍しい植物の探索に赴き、その地で見たモニュメントや建築様式から大きな影響を受けたとされています。

チャッツワースでの革新

1828年、パクストンはチャッツワースで温室の改良に取り組み始めました。建築家やエンジニアと協力し、鉄とガラスを組み合わせた革新的な構造物を次々と生み出しました。1831年には、のこぎり屋根を開発し、その構造に組み込まれた水切りで特許を取得しました。これらの技術は、1834年のチャッツワース・グリーン・ハウスを皮切りに、グリーニ・ストーブ、チャッツワース・アマーズティア・ハウス、スチーム暖房完備の大温室、ヴィクトリー・ハウスなど、数々の温室建設を可能にしました。また、彼は仲間と共に園芸雑誌「ガーデナーズ・クロニクル」を創刊し、この雑誌は現在も続いています。

1849年には、英領ギアナから移植された巨大なユリ科の植物ビクトリアレジアの栽培に成功し、その栽培技術は高く評価されました。1850年には、パクストン・ガーターという温室架橋システムで特許を取得しています。

チャッツワース公爵はパクストンの能力を高く評価し、庭園管理だけでなく、森林や道路の維持運営、財産管理、土地経営など、幅広い業務を彼に委任しました。パクストンは営業や経営の手腕も発揮し、ミッドランド鉄道会社の取締役として鉄道経営にも参画するまでになりました。

クリスタル・パレスと国民的英雄

パクストンの名声を不動のものとしたのは、1851年のロンドン万国博覧会のために設計・建設されたクリスタル・パレスです。ハイド・パークに建設されたこの巨大なガラス建築は、7万1千平方メートルを覆う完全プレハブ構造で、当時としては画期的なものでした。パクストンは、鉄道関係の仕事を通じて知り合ったロバート・スティーブンソンなどから博覧会の情報を入手し、博覧館のコンペが難航していることを知ると、独自のアイデアを提案しました。クリスタル・パレスの成功により、パクストンはナイトの称号を授与され、国民的な英雄となりました。クリスタル・パレスはその後シドナムの丘に移築されましたが、1936年に火災により焼失しました。

その他の業績

1854年、パクストンは国会議員に選出され、政治家としても活動しました。議員として、ロンドンを取り巻く全長20キロのバイパスと一般道をガラスの屋根で覆い、その上を高架鉄道が走るという壮大なグレート・ヴィクトリアン・ウェイ計画を立案しました。また、1856年にはシナドムなどにもクリスタル・パレスを建設しています。

パクストンは1834年から1849年の間に、16巻に及ぶ「Magazine of Botany」を出版しました。この書籍には、手彩色された美しい銅版画の図版が掲載されています。

造園家としての功績

パクストンは、イギリスにおける公園設計の先駆者としても知られています。彼は、バーケンヘッド・パークをはじめ、リバプール・プリンシズ・パーク、アップトン・パーク、パクストン・パーク、ピープルズ・パーク、バクスター・パーク、ダンファームリン・パブリック・パークなど、数多くの公園を設計・建設しました。彼の元からは、ジョン・ギブソン、エドワード・ケンプ、エドワード・ミルナーなど、多くの優秀な庭師や造園家が育ちました。

サー・ジョセフ・パクストンは、その革新的な発想と卓越した才能によって、庭園、建築、そして社会に多大な影響を与えた人物として、今もなお高く評価されています。

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