ジョナサン・アイブ

ジョナサン・アイブ

イギリスのプロダクトデザイナー、ジョナサン・ポール・アイブ（Sir Jonathan Paul Ive、1967年2月27日 - ）は、Appleの元最高デザイン責任者（CDO）として世界的に知られる人物です。彼の主導により、AppleはiMac、MacBook、iPod、iPhone、iPadといった、テクノロジーとデザインが高い次元で融合した革新的な製品群を生み出し、現代の製品デザインに計り知れない影響を与えました。

生い立ちとキャリアの始まり

アイブは1967年にロンドンで生まれ、教育者の父のもとで育ちました。チングフォード財団学校、ウォルトン高校を経て、ニューカッスル・ポリテクニック（現在のノーザンブリア大学）でインダストリアルデザインを専攻しました。卒業後はロンドンのデザイン会社Tangerineで一時的に勤務しました。

1992年、Appleでのキャリアを築くためアメリカ合衆国へ移住します。当時のAppleのインダストリアルデザイン部門はロバート・ブルーナーが統括していましたが、アイブは20周年記念Macintoshのデザインでその才能を示し、社内で注目を集める存在となりました。

Appleデザイン部門のリーダーとして

1996年、アイブはロバート・ブルーナーの後任として、Appleのインダストリアルデザイン担当責任者に正式に就任します。これ以降、彼はAppleのデザイングループ（IDG）を率い、同社の主要製品のデザイン全体を指揮する立場となりました。特にスティーブ・ジョブズがAppleに復帰してからは、ジョブズのビジョンとアイブのデザイン力が相まって、Apple製品はデザイン面で飛躍的な進化を遂げます。アイブは、インダストリアルデザイン担当上級副社長から、ソフトウェアも含むデザイン担当上級副社長、そして最高デザイン責任者（CDO）へと昇格しました。彼はジョブズ復帰以前からAppleに在籍していた、数少ない重要な幹部の一人でした。

Apple製品デザインの変遷

アイブと彼のチームが手掛けたApple製品のデザインは、時代の流れとともに顕著な変化を遂げました。そのスタイルは、主に以下の4つのフェーズに分けられます。

1. トランスルーセント（半透明）期

1997年頃から始まったこの時期は、半透明のプラスチック素材を多用したデザインが特徴です。特に1998年に登場したオリジナルiMac（通称ボンダイブルー）で広く知られ、鮮やかなキャンディカラーやミルキーホワイトが半透明の筐体と組み合わされました。丸みを帯びた形状や、内部構造がうっすらと見える表現は、親しみやすさと技術的な先進性を両立させました。このデザインは、ガムドロップキャンディに触発されたもので、その実現のために新しい製造技術が必要とされました。初代iBookなどもこの流れを汲んでいます。

2. カラー期

1999年以降、iMacはボンダイブルーに加え、ブルーベリー、グレープ、タンジェリン、ライム、ストロベリーといった豊富なキャンディカラーを展開し、消費者に選択の楽しみを提供しました。これらのカラフルなデザインは、iBookやPower Mac G3といった他の製品にも波及し、当時のコンシューマー向け電化製品市場全体に明るい色彩をもたらすきっかけとなりました。その後もグラファイト、ルビー、セージ、スノーなど、様々なカラーバリエーションが登場しました。

3. ミニマリズム期

2001年頃からは、多色使いから一転して、シンプルでミニマルなデザインへと移行します。プロフェッショナル製品にはチタンやアルミニウムなどの金属素材が採用され、コンシューマー製品では、透明感を残しつつも内側を白く塗装したり、素材自体を白色にしたりと、クリーンな印象が追求されました。全体的に、柔らかい曲線から直線的で洗練された形状へと変化し、ドイツのデザイナー、ディーター・ラムスの哲学からの影響が見受けられます。iPod以降の多くのApple製品も、このミニマルで機能的なデザイン言語を踏襲しています。

4. アルミニウムと黒の組合せ期

2008年以降、Appleのデザインは白色プラスチックから、ガラスとアルミニウムを組み合わせたスタイルが主流となります。アルミニウムの塊から精密に削り出される「ユニボディ」構造は、強度と同時に、無駄を削ぎ落とした究極のシンプルさを実現しました。初代iPhoneで確立されたガラス画面と黒いフレームの組み合わせは、以降のiMac、MacBookシリーズ、iPod classicなど、Appleの主要製品の共通デザイン要素となり、その洗練された外観はAppleブランドの象徴となりました。

受賞歴と評価

アイブのデザインに対する評価は国際的に非常に高く、数々の賞を受賞しています。インダストリアルデザイン分野における貢献が認められ、デザインミュージアムの「デザイナー・オブ・ザ・イヤー」初代受賞、そして大英帝国勲章の叙勲などを受けています。彼のデザインは、単に美しいだけでなく、製品の使いやすさや製造プロセスにまで踏み込んだ総合的なものであり、21世紀のデザインに大きな影響を与えたと評価されています。

Apple退社、そしてLoveFromへ

2019年6月、ジョナサン・アイブはAppleを退社し、長年の協力者であるデザイナーのマーク・ニューソンと共に自身のデザイン事務所「LoveFrom」を設立することを発表しました。退社後もLoveFromはAppleと業務委託契約を結び、デザイン開発に携わっていましたが、2022年7月にはこの契約が終了したことが公表されました。現在、アイブはLoveFromでの活動を通じて、様々な分野でデザインの可能性を追求しています。

私生活では、歴史家のヘザー・ペグと結婚し、双子の父として知られています。

もう一度検索