ジョルジョ・デ・キリコ

ジョルジョ・デ・キリコ：形而上絵画の巨匠とその生涯

ジョルジョ・デ・キリコ (1888年-1978年) は、20世紀を代表するイタリアの画家、彫刻家です。ギリシャで生まれ、ヨーロッパ各地を転々とした生涯の中で、独特の画風を確立し、後のシュルレアリスムに大きな影響を与えました。その作品は、静謐な雰囲気と謎めいた象徴性で知られ、見る者に強い印象を与えます。

ギリシャでの幼少期と芸術への目覚め

1888年、ギリシャのヴォロスで、鉄道技師の父とイタリア人の母のもとに生まれました。幼少期はギリシャで過ごし、1900年にはアテネの理工科学校に通いながら、初期の静物画を描いています。この頃の経験が、後の作品世界に影響を与えたことは想像に難くありません。1905年に父を亡くし、家族と共にイタリアへ移住します。

ヨーロッパでの修練と画風確立

1907年、デ・キリコはドイツのミュンヘン美術アカデミーに入学します。この頃、ニーチェやショーペンハウエルといった哲学者たちの思想に触れ、彼の芸術観に大きな変化をもたらしました。その後ミラノ、フィレンツェと移り住み、1911年には芸術の中心地パリへ移住します。パリでの生活は、彼の芸術家としての成長を大きく促進しました。

1912年からいくつかの展覧会に出品し始めますが、彼の作品は当時の芸術潮流とは全く異質のものでした。古典的な建築、古代ギリシャ風の彫刻、近代的な機関車などを組み合わせた風景画は、見る者を不思議な世界へと誘います。しかし、その独特の画風は、すぐに理解されるわけではありませんでした。

形而上絵画の誕生と評価

転機となったのは、詩人で美術評論家のギョーム・アポリネールとの出会いです。アポリネールはデ・キリコの作品にいち早く注目し、高く評価しました。彼の支持は、デ・キリコの作品が世に知られるきっかけとなりました。

第一次世界大戦中はイタリア軍に召集され、北イタリアのフェッラーラに駐屯しました。この地で体験した独特の雰囲気は、後の作品にも反映されているといわれています。戦後、デ・キリコは「形而上絵画」という新しい画風の先駆者として注目を集めます。この画風は、現実離れした静物や風景を描き、見る者に不安や謎めいた感覚を与えます。カルロ・カッラやジョルジョ・モランディといった後継者も輩出しました。

晩年と多様な活動

しかし、デ・キリコはその後、古典的な作風へと回帰する時期もありました。晩年には再び幻想的な作風へと回帰し、精力的に制作を続けました。作家としても活動し、小説『エブドメロス』を著しています。彼はまた、同時代の画家たちを辛辣に批評する毒舌家としても知られています。

日本における評価と影響

日本では、シュルレアリスム系の画家として、デ・キリコは高い人気を誇ります。特に、吉原治良や難波田龍起といった日本の画家たちに大きな影響を与えました。デ・キリコの作品は、現在でも世界中で高く評価され、20世紀美術史における重要な位置を占めています。

代表作

通りの神秘と憂愁 (1914)
ヘクトールとアンドロマケの別れ

デ・キリコの作品は、その独特の雰囲気と謎めいた象徴性から、現在でも多くの鑑賞者を魅了し続けています。彼の生涯と作品は、20世紀の美術史において、重要な一ページを刻んでいます。彼の作品は、単なる絵画を超えた、哲学的な問いを投げかけてくれると言えるでしょう。彼の創作活動は、私たちに芸術の多様性と無限の可能性を示唆しています。そして、彼の作品は、今もなお、人々に深い感動と想像力を与え続けているのです。

もう一度検索