ジョン・スミス (バプテスト牧師)

ジョン・スミス：信教の自由とバプテスト教会の黎明

ジョン・スミス（John Smyth、1570年頃 - 1612年8月28日）は、イングランドの初期バプテスト運動において重要な役割を果たした牧師です。彼は信教の自由を強く主張し、独自の洗礼観に基づいて教会を設立しましたが、その後の活動は複雑な展開を見せます。今日、多くのバプテスト歴史家は彼をバプテスト派、特にジェネラル・バプテストの創始者と位置づけています。

生い立ちとイングランド国教会

リンカンシャーで生まれたスミスは、ゲインズバラのグラマースクールで教育を受け、ケンブリッジ大学を卒業しました。1594年にはイングランド国教会の司祭に叙任され、リンカンで宣教活動を行いますが、やがて分離派の思想に影響を受け、国教会を批判するようになります。このため、彼は国教会を辞任に追い込まれます。

オランダへの亡命とバプテスト教会の創設

辞任後、スミスは非合法の分離派教会の牧師となります。しかしイングランドにおける分離派への弾圧が激化したため、1608年に信仰の自由を求めてオランダのアムステルダムに移住しました。アムステルダムではメノナイト・ウォーターランド派教会の支援を受け、聖書に基づいた信仰生活を送ります。

スミスは聖書の研究を通じて、幼児洗礼が聖書の教えに反すると確信するようになりました。この考えを支持者たちに伝え、既存の分離派教会を解散し、自らに「信仰者のバプテスマ」を施しました。これは、額に水を垂らす「滴礼」や後に一般的となる「浸礼」とは異なり、「灌水礼」と呼ばれる形式でした。その後、支持者たちにも洗礼を行い、1609年、史上初のバプテスト教会を創設したとされています。この「灌水礼」はジェネラル・バプテストにおいてしばらく用いられましたが、後に「浸礼」に統一されています。

スミスの思想とバプテスト教会の特徴

スミスは、国教会から分離した後も、国教会から受け継いだ信仰の遺産を再構築しました。彼は、真の礼拝は熱意のこもった信仰心から生まれるものであり、形式的な典礼は人間の創作物に過ぎないと主張しました。この考えは、多くのバプテスト教会の礼拝様式に影響を与えています。また、教会のリーダーシップとして「牧師」と「執事」の二つの役割を導入しました。これは、宗教改革期に生まれた三つのリーダーシップ制とは異なるものです。

さらに、スミスは幼児洗礼を受けていた信徒にも改めてバプテスマを施すべきだと主張し、バプテスマの継続性を強調しました。これは後のバプテスト運動にとって重要な概念となりました。

教会の分裂とその後

1609年にバプテスト教会を設立したスミスでしたが、後に自身の行動を後悔し、バプテストとしての立場を放棄しました。彼は、メノナイト・ウォーターランド派教会こそが正しい教会であり、自らが行ったバプテスマは間違いであったと主張するようになりました。

1610年、スミスは教会を分裂させ、自身と一部の信徒はメノナイト教会に合流しました。この出来事がきっかけで、バプテスト教会内部でスミス派とトマス・ヘルウィス（Thomas Helwys）率いるグループとの分裂が生じ、ヘルウィス派は後にジェネラル・バプテストとして発展していきました。スミスの生涯と活動は、バプテスト教会の誕生と発展に複雑な影響を与えたと言えるでしょう。彼の信教の自由への強い意志と独自の洗礼観は、現代のバプテスト運動に今も影響を与え続けています。

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