ジョン・ターナー
ジョン・ネイピア・ウィンダム・ターナー（John Napier Wyndham Turner、1929年6月7日 - 2020年9月18日）は、カナダの政治家であり、同国の第23代首相を務めた人物です。
ターナーは1929年、イギリスのサリー州リッチモンドで生を受けました。1932年に父を亡くした後、カナダ人の母と共にカナダへ移住し、母の故郷であるブリティッシュコロンビア州ロスランドに居を構えました。その後、母が後にブリティッシュコロンビア州副総督となるフランク・マッケンジー・ロスと再婚したことに伴い、一家はバンクーバーに移り住みました。
学業においては、1945年に16歳でブリティッシュコロンビア大学に入学。また、青年期には短距離陸上選手として傑出した才能を示し、1940年代後半には国内トップクラスのアスリートとして活躍しました。100メートル競走ではカナダ記録保持者となるほどでしたが、膝の故障により、1948年のロンドンオリンピック出場という夢は断たれてしまいました。
大学を1949年に卒業すると、栄誉あるローズ奨学生としてオックスフォード大学モードリン・カレッジに進み、法学を修めました。学士号および修士号を取得した後、1952年から1953年にかけてはパリ大学でも博士課程を修了するなど、卓越した学歴を築きました。
高度な教育を受けたターナーは、法曹界に進みました。当初はモントリオールの法律事務所で弁護士として活動していましたが、そのキャリアは政治へと向かいます。1962年には国会議員に選出され、政界入りを果たしました。
若きターナーは、その優れた学歴、著名なアスリートとしての経歴、優秀な弁護士としての実績、英仏両語に堪能であること、端正な容姿に加え、広範な政治的人脈を持っていたことから、所属する自由党内では将来を嘱望される「金の卵」として大きな期待を寄せられました。1960年代から1970年代にかけて、レスター・ピアソン首相およびピエール・トルドー首相のもとで閣僚を歴任し、その手腕は高く評価されました。
ピアソン内閣では消費者企業問題担当大臣などを務めた後、1968年のピアソン首相退任に伴う自由党党首選挙に出馬。トルドー氏と激しい争いを繰り広げましたが、僅差で惜敗しました。トルドー内閣では、まず4年間、法務大臣として重責を担いました。この間、議論を呼んだ公用語法制定においては政府の見解を代表し、また1970年の「オクトーバー・クライシス」と呼ばれる非常事態の収拾にも重要な役割を果たしました。
その後、1972年から1975年までは財務大臣として経済政策を統括しました。この時期は石油危機、戦後貿易体制の揺らぎ、低成長とインフレーションの同時進行（スタグフレーション）、財政赤字の拡大など、世界経済が大きな困難に直面していた時代であり、その対応に追われました。政策に関してはトルドー首相よりも保守的な考えを持つことがあり、これが個人的な対立につながったとも言われています。そして、1975年に突然、財務大臣を辞任し、政界からの引退を表明しました。トルドー氏の回想録によれば、ターナー氏は13年間のオタワでの政治活動に疲弊し、家族のためにより時間と経済的安定を得られるトロントでの弁護士としての仕事を選んだとされています。
政界を離れていた1975年から1984年までの間、ターナー氏はトロントの主要な法律事務所であるマクミラン・ビンチで企業弁護士として活躍しました。1979年の総選挙でトルドーが敗北し、党首辞任を示唆した際には、自身は党首選には出馬しないと表明していましたが、その後の政治情勢の変化により、トルドーは政権に復帰しました。
そして1984年、トルドー氏が再び政界からの引退を表明すると、ターナー氏はこれに応える形で政治の舞台に戻ります。自由党の党首選挙に立候補し、ジャン・クレティエン氏らを破って当選を果たしました。これに伴い、ターナー氏は議会の議席を持たないまま、カナダの第23代首相に任命されました。
通常、カナダでは議席を持たない首相が誕生した場合、その首相が次の選挙で当選できるよう、有力議員が選挙区を譲り、補欠選挙を実施して議席を確保するのが慣例となっています。しかし、ターナー氏は首相就任からわずか9日後という異例の早さで下院を解散し、総選挙に臨むという大胆な決断を下しました。この判断は党にとって裏目に出ました。総選挙で自由党は地滑り的な大敗を喫し、ターナー氏は首相就任からわずか79日間で退任に追い込まれました。この79日間という首相在任期間は、カナダの歴史上、リチャード・ベネットに次ぐ2番目の短さです。また、彼は首相在任期間を通じて一度も議会の議席を持たなかった、カナダ史上唯一の首相としても記憶されています。
首相退任後も、ターナー氏は1993年まで下野した自由党の党首を務めました。1988年の総選挙では、前回の惨敗からある程度の失地回復を果たしました。
1993年に国会議員を辞職し、完全に政界から身を引いた後は、再び法曹界に戻って活動しました。晩年には、特に若者たちと政治について対話することに関心を示していたと言われています。
ジョン・ターナー氏は、2020年9月18日、91歳でその生涯を閉じました。彼の政治キャリアは、華々しい閣僚経験と、短くも波乱に満ちた首相時代という、対照的な側面を持っています。特に、議席を持たないまま総選挙に挑んだ短い首相在任期間は、カナダ政治史における特異なエピソードとして語り継がれています。
生涯の始まりと青年期
ターナーは1929年、イギリスのサリー州リッチモンドで生を受けました。1932年に父を亡くした後、カナダ人の母と共にカナダへ移住し、母の故郷であるブリティッシュコロンビア州ロスランドに居を構えました。その後、母が後にブリティッシュコロンビア州副総督となるフランク・マッケンジー・ロスと再婚したことに伴い、一家はバンクーバーに移り住みました。
学業においては、1945年に16歳でブリティッシュコロンビア大学に入学。また、青年期には短距離陸上選手として傑出した才能を示し、1940年代後半には国内トップクラスのアスリートとして活躍しました。100メートル競走ではカナダ記録保持者となるほどでしたが、膝の故障により、1948年のロンドンオリンピック出場という夢は断たれてしまいました。
大学を1949年に卒業すると、栄誉あるローズ奨学生としてオックスフォード大学モードリン・カレッジに進み、法学を修めました。学士号および修士号を取得した後、1952年から1953年にかけてはパリ大学でも博士課程を修了するなど、卓越した学歴を築きました。
政治家としてのキャリア
高度な教育を受けたターナーは、法曹界に進みました。当初はモントリオールの法律事務所で弁護士として活動していましたが、そのキャリアは政治へと向かいます。1962年には国会議員に選出され、政界入りを果たしました。
若きターナーは、その優れた学歴、著名なアスリートとしての経歴、優秀な弁護士としての実績、英仏両語に堪能であること、端正な容姿に加え、広範な政治的人脈を持っていたことから、所属する自由党内では将来を嘱望される「金の卵」として大きな期待を寄せられました。1960年代から1970年代にかけて、レスター・ピアソン首相およびピエール・トルドー首相のもとで閣僚を歴任し、その手腕は高く評価されました。
ピアソン内閣では消費者企業問題担当大臣などを務めた後、1968年のピアソン首相退任に伴う自由党党首選挙に出馬。トルドー氏と激しい争いを繰り広げましたが、僅差で惜敗しました。トルドー内閣では、まず4年間、法務大臣として重責を担いました。この間、議論を呼んだ公用語法制定においては政府の見解を代表し、また1970年の「オクトーバー・クライシス」と呼ばれる非常事態の収拾にも重要な役割を果たしました。
その後、1972年から1975年までは財務大臣として経済政策を統括しました。この時期は石油危機、戦後貿易体制の揺らぎ、低成長とインフレーションの同時進行（スタグフレーション）、財政赤字の拡大など、世界経済が大きな困難に直面していた時代であり、その対応に追われました。政策に関してはトルドー首相よりも保守的な考えを持つことがあり、これが個人的な対立につながったとも言われています。そして、1975年に突然、財務大臣を辞任し、政界からの引退を表明しました。トルドー氏の回想録によれば、ターナー氏は13年間のオタワでの政治活動に疲弊し、家族のためにより時間と経済的安定を得られるトロントでの弁護士としての仕事を選んだとされています。
短命に終わった首相職
政界を離れていた1975年から1984年までの間、ターナー氏はトロントの主要な法律事務所であるマクミラン・ビンチで企業弁護士として活躍しました。1979年の総選挙でトルドーが敗北し、党首辞任を示唆した際には、自身は党首選には出馬しないと表明していましたが、その後の政治情勢の変化により、トルドーは政権に復帰しました。
そして1984年、トルドー氏が再び政界からの引退を表明すると、ターナー氏はこれに応える形で政治の舞台に戻ります。自由党の党首選挙に立候補し、ジャン・クレティエン氏らを破って当選を果たしました。これに伴い、ターナー氏は議会の議席を持たないまま、カナダの第23代首相に任命されました。
通常、カナダでは議席を持たない首相が誕生した場合、その首相が次の選挙で当選できるよう、有力議員が選挙区を譲り、補欠選挙を実施して議席を確保するのが慣例となっています。しかし、ターナー氏は首相就任からわずか9日後という異例の早さで下院を解散し、総選挙に臨むという大胆な決断を下しました。この判断は党にとって裏目に出ました。総選挙で自由党は地滑り的な大敗を喫し、ターナー氏は首相就任からわずか79日間で退任に追い込まれました。この79日間という首相在任期間は、カナダの歴史上、リチャード・ベネットに次ぐ2番目の短さです。また、彼は首相在任期間を通じて一度も議会の議席を持たなかった、カナダ史上唯一の首相としても記憶されています。
政界引退後
首相退任後も、ターナー氏は1993年まで下野した自由党の党首を務めました。1988年の総選挙では、前回の惨敗からある程度の失地回復を果たしました。
1993年に国会議員を辞職し、完全に政界から身を引いた後は、再び法曹界に戻って活動しました。晩年には、特に若者たちと政治について対話することに関心を示していたと言われています。
ジョン・ターナー氏は、2020年9月18日、91歳でその生涯を閉じました。彼の政治キャリアは、華々しい閣僚経験と、短くも波乱に満ちた首相時代という、対照的な側面を持っています。特に、議席を持たないまま総選挙に挑んだ短い首相在任期間は、カナダ政治史における特異なエピソードとして語り継がれています。
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