ジョン・ヒル (植物学者)

ジョン・ヒル（1716年頃-1775年）は、18世紀のイギリスを代表する著述家であり、植物学者としても顕著な業績を残した人物である。特に、膨大な量の図版を収録した植物書「The Vegetable System」によって高い評価を得て、スウェーデン国王から栄誉ある称号を授与され、「サー・ジョン・ヒル」とも称されるようになった。

聖職者の息子としてピーターバラ近郊で生まれたとされるヒルは、若い頃に薬剤師の見習いを経験した。その後、ロンドンのウェストミンスター地区に小さな薬局を開業し、国内外を旅して珍しい薬草を収集する計画を立てたが、これは実を結ばなかった。しかし、エディンバラ大学で医学を修め、医師として開業し、自ら薬を調合・販売することで、着実に財産を築き上げていった。

ヒルは医学の道を歩む一方で、並外れた文筆の才能を発揮した。最初の著作は1746年に刊行された、古代ギリシアの哲学者テオプラストスの「石について」の英訳であった。これを皮切りに、彼は驚くほど多産な著述家として活動を開始する。1746年から1750年にかけては雑誌「British Magazine」の編集を担い、さらに新聞「ロンドン・アドバイザー・リテラリー・ガゼット」には日刊コラム「The Inspector」を連載するなど、精力的に媒体に関わった。その執筆分野は多岐にわたり、小説や戯曲といった文学作品から、科学解説までを網羅した。特に、イーフレイム・チェンバーズが編集した著名な百科事典「サイクロペディア」においては、主要な執筆者の一人として貢献している。

ヒルの学術的な業績の中でも最も特筆すべきは、1759年から1775年という長期間を費やして完成させた、全26巻からなる植物学の著作「The Vegetable System」である。この大著には、1600枚にも及ぶ緻密な銅版画が収められており、当時の植物研究における重要な資料となった。このプロジェクトは、ヒルのパトロンであったビュート卿の強い要望を受けて開始されたものであった。この著作の学術的価値が認められ、1774年にはスウェーデン国王からヴァーサ勲章（Order of Vasa）が授与され、これ以降、彼はサーの称号で呼ばれるようになった。

ヒルは1740年代、特に1746年頃から活発に王立協会の会合に出席し、植物学や医学、さらにはサファイアの発色の秘密や耐火煉瓦の原料といった幅広い分野での自身の研究成果を発表した。これらの発表の一部は、王立協会の学術誌「フィロソフィカル・トランザクションズ」にも掲載された。ヒルはこれらの活動を通じて、王立協会の会員に選ばれることを強く望んでおり、著名な植物学者ピーター・コリンソンや、医師で科学者のウィリアム・ワトソン、考古学者のウィリアム・スツークリといった有力な会員からの支援を取り付けようと奔走した。しかし、彼の努力は実らず、結局王立協会の会員に選出されることはなかった。この結果に深く失望したヒルは、王立協会を批判する方向へと転じた。1749年12月には匿名で「フィロソフィカル・トランザクションズ」に掲載された記事への辛辣な批評を発表し、翌1750年1月には王立協会そのものを公然と批判・嘲笑する著作を刊行した。この批判活動は、1752年から1753年にかけて、作家のヘンリー・フィールディングをはじめとする他の作家や出版者をも巻き込み、「1752–53年の紙の戦争」（Paper War of 1752–1753）として悪名高い、激しい批判と中傷の応酬へと発展していった。

ヒルの名は、植物学の世界において、アカネ科の属名「Hillia」に献名される形で現代に伝えられている。その波乱に満ちた生涯と多面的な活動は、18世紀イギリスの知識人社会の一端を垣間見せるものである。

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