ジョン・フラクスマン

ジョン・フラクスマン（John Flaxman、1755年7月6日生 - 1826年12月7日没）は、18世紀後半から19世紀初頭にかけてイギリスで活躍した、多才な芸術家です。彼は彫刻家として名を馳せただけでなく、陶磁器デザイナー、そして独自のスタイルを持つイラストレーターとしても知られています。特に、新古典主義を代表する彫刻家の一人として評価されています。

彼の生涯は、イングランド北部ノース・ヨークシャーの都市ヨークで始まりました。父であるジョンも同名の装飾彫刻家（decorative plasterer）であり、当時はヨークで石膏像の制作や販売を行う工房を営んでいました。フラクスマンが生まれて間もなく、一家はロンドンへと居を移し、彼は幼い頃から父の工房で彫刻や石膏像制作の技術を学びました。幼少期から並外れた芸術的才能を示した彼は、わずか12歳で著名な画家ジョージ・ロムニーが設立した自由美術協会（Free Society of Artists）のギャラリーに自身の彫像を出展する機会を得ました。さらに3年後には、権威あるロイヤル・アカデミー・オブ・アーツの夏季展覧会に出展した作品で銀メダルを獲得し、その才能を早くから認められました。

彼のキャリアにおいて重要な転機となったのが、1775年に陶磁器メーカーであるウェッジウッド社にデザイナーとして雇用されたことです。当時の経営者であったトーマス・ベントレーとジョサイア・ウェッジウッドのもとで、彼は数々の優れた陶器デザインを生み出し、その革新性と美しさで高い評価を得ました。1782年に結婚した後、1785年にはウェッジウッド社からの奨学金を得て、妻と共に新古典主義の中心地であるローマへ留学しました。ローマでは、同時代の著名な新古典派彫刻家であるアントニオ・カノーヴァをはじめとする多くの芸術家と交流を深め、古典芸術への理解と探求をさらに深めました。

ローマ滞在中の1793年頃、フラクスマンは自身の芸術スタイルとして、輪郭線のみで人物や情景を描写する独特なイラストレーションの手法を確立しました。この線描スタイルは、当時の技術で広く普及し始めていた版画化に非常に適していました。1795年頃に出版された古代ギリシアの詩人ホメロスによる二大叙事詩、『イーリアス』と『オデュッセイア』の挿絵としてこのスタイルのイラストレーションが採用されると、そのシンプルながらも力強い表現は絶大な人気を博しました。フラクスマンによるホメロス作品の挿絵はヨーロッパ中で評判となり、彼の名を国際的に高めると同時に、多くの後続の芸術家たちがこのスタイルに追随するきっかけとなりました。

1794年にロンドンに帰国した彼は自身の工房を設立し、助手を雇ってモニュメントなどの大規模な彫刻作品の制作に取り組みました。ロンドン近郊の丘に高さ61メートルもの巨大なブリタニア像を建設し、海上からも見えるようにするという壮大な計画も立案しましたが、残念ながらこれは実現しませんでした。しかし、その芸術家としての功績は高く評価され、1800年にはロイヤル・アカデミー・オブ・アーツの正会員に選出されました。さらに、1810年からは同アカデミーで彫刻の教授として教鞭をとり、後進の指導にもあたりました。

ジョン・フラクスマンは、彫刻、陶器デザイン、イラストレーションと多岐にわたる分野で才能を発揮し、新古典主義の時代において重要な役割を果たしました。特に彼の線描イラストは、その後のイラストレーションの歴史に大きな影響を与えたと言えるでしょう。

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