ジョン・ル・カレ

ジョン・ル・カレ：冷戦を彩ったスパイ小説の巨匠

ジョン・ル・カレ、本名デビッド・ジョン・ムーア・コーンウェルは、20世紀を代表するスパイ小説作家の一人です。1931年、イギリスのドーセット州プールに生まれました。オックスフォード大学卒業後、イートン校で教鞭をとり、その後、イギリスの情報機関MI5、MI6に勤務。この経験が、彼のリアリティ溢れるスパイ小説の源泉となりました。

MI6での経験と小説家への転身

MI6在籍中は主に西ドイツで勤務し、外交官としてのキャリアを積む傍ら、自身の経験を基にした小説の執筆を始めました。1961年、29歳の時に発表した処女作『死者にかかってきた電話』で小説家デビューを果たします。この作品は、のちに映画化もされました。

続く1963年、発表された『寒い国から帰ってきたスパイ』は、彼の代表作の一つとして世界的な評価を獲得しました。出版前に3回もの増刷が行われ、パラマウント映画から映画化のオファーを受けるほどの注目を集め、エドガー賞長編賞を受賞するなど、高く評価されています。

スマイリーシリーズと多様な作品群

ル・カレ作品の中でも特に知られるのは、老練なMI6幹部「ジョージ・スマイリー」を主人公とした一連の作品群です。『死者にかかってきた電話』や『高貴なる殺人』、『ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ』、『スクールボーイ閣下』、『スマイリーと仲間たち』など、多くの作品でスマイリーが登場し、彼の複雑な人間性や冷徹な洞察力が読者を魅了しました。特に、『ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ』、『スクールボーイ閣下』、『スマイリーと仲間たち』の3作品は、「スマイリー三部作」として高い人気を誇ります。

しかし、彼の作品はスマイリーシリーズに留まりません。多様なテーマと視点を取り入れ、冷戦時代のスパイ活動だけでなく、政治、陰謀、人間ドラマを複雑に織り交ぜた数々の作品を発表し続けました。これらの作品は、世界各国で翻訳され、広く読まれています。

映画化、テレビドラマ化作品多数

ル・カレの作品は、数多くの映画やテレビドラマにも映像化されています。代表的な作品としては、『寒い国から帰ってきたスパイ』、『ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ』、『リトル・ドラマー・ガール』、『ナイト・マネジャー』などが挙げられ、それぞれ高い評価を得ています。これらの作品は、彼の小説の世界観をさらに多くの人々に届けることに貢献しました。また、中には彼が脚本に携わったり、カメオ出演したりした作品もあります。

私生活と晩年

私生活では、2度の結婚をし、作家である息子もいます。タイプライターを打つことができなかったため、妻が原稿のタイプ打ちを担っていたというエピソードも知られています。

2015年には、本人へのインタビューと資料をもとにした伝記が出版され、2016年には回顧録を発表。そして、2020年12月12日、肺炎のため89歳で死去しました。晩年、イギリスのEU離脱に反対し、アイルランド国籍を取得していたことも明らかになっています。

参考文献

アダム・シズマン 著、加賀山卓朗、鈴木和博 訳『ジョン・ル・カレ伝 <上・下>』早川書房、2018年5月25日
ジョン・ル・カレ 著、加賀山卓朗 訳『地下道の鳩─ジョン・ル・カレ回想録』早川書房、2017年3月15日

ジョン・ル・カレは、冷戦という時代背景を巧みに描き、複雑な人間模様とスリリングな展開で読者を魅了し続けた、真の巨匠でした。彼の作品は、これからも多くの人々に読み継がれていくことでしょう。

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