ドーセット

ドーセット（Dorset）

ドーセットは、イングランド南西部に位置する典礼カウンティであり、その歴史と自然の美しさで知られています。かつてはドーセットシャーと呼ばれていました。北西はサマセット、北と北東はウィルトシャー、東はハンプシャーと隣接し、南東はソレント海峡を挟んでワイト島と対峙し、西はデヴォンと接しています。南はイギリス海峡に面しています。最大の町はボーンマスで、州都はドーチェスターです。

地理と地形

ドーセットの面積は2,653平方キロメートルで、人口は約80万人です。人口の約半数は南東ドーセット都市圏に集中しており、ボーンマス、プール、クライストチャーチなどの主要な町がこの地域に含まれます。その他の地域は大部分が農村地帯で、ウェイマスやドーチェスターが主要な町として挙げられます。

地形は、チョークの丘陵、石灰岩の急峻な尾根、粘土質の平野で構成されています。特に沿岸部は、その地質学的・古生物学的な重要性から、ジュラシック・コーストとしてユネスコの世界自然遺産に登録されています。ラルワース湾、ポートランド島、チェシル・ビーチ、ダードル・ドアなどの特徴的な地形が見られます。州北部にはクランボーン・チェースと呼ばれるチョークの丘陵地帯が広がっています。州内の最高地点は、南西部のルースドン・ヒル（標高279メートル）です。

歴史

ドーセットには、新石器時代からケルト時代、ローマ時代にかけての遺跡が発見されています。中世初期にはサクソン人が到来し、7世紀ごろからカウンティの発展が始まりました。8世紀にはヴァイキングが到来しましたが、これはイギリス諸島における最古の記録の一つです。1348年には、メルコム・レジスでイングランド最初のペスト（黒死病）患者が発生しました。

歴史的に、ドーセットは数多くの騒乱の舞台となってきました。イングランド内戦時には、クラブメンと呼ばれる自警団がオリバー・クロムウェルの軍勢に撃破され、モンマスの反乱はライム・レジスで始まりました。また、ドーセットの農場労働者たちはトルパドル・マーサーズとして労働組合運動の組織化に貢献しました。第二次世界大戦中には、ノルマンディー上陸作戦の準備拠点となり、主にポートランドとプールの港が重要な役割を果たしました。産業はかつて農業が中心でしたが、現在は観光業が盛んです。

地名の由来

ドーセットという地名は、カウンティ・タウンであるドーチェスターに由来します。この町は1世紀に古代ローマが建設したドゥルノワリアという植民市が起源です。ドゥルノワリアは「こぶし大の石の場所」を意味する共通ブリトン語がラテン語化したものと考えられています。サクソン人はこの町をDornwaraceaster（-ceasterは「ローマの町」を意味する）と呼びました。地名の初出は845年のアングロサクソン年代記で、10世紀にはDorseteschyre（ドーセットシャー）とも記録されています。

古代から中世

ドーセットに人類が初めて到来したのは、紀元前8000年頃の中石器時代です。新石器時代の紀元前3000年頃には、定住者が現れ、ドーセット・サーカスのような祭祀用の構造物を築きました。紀元前2800年頃からの青銅器時代には、農耕民が森林を開墾し、石灰岩の丘に円墳を築きました。鉄器時代には、ドゥロトリゲス族がカウンティ各地にヒルフォートを築きました。特にメイデン・キャッスルは、ヨーロッパ有数の規模を誇ります。

紀元43年の古代ローマによるブリタニア征服で、ドーセットにもローマ軍が到来しました。メイデン・キャッスルは第2軍団アウグスタによって占領され、近くにドゥルノワリアという入植地が建設されました。古代ローマ時代には、ボカリー・ダイクという堀が築かれ、サクソン人の侵攻を食い止めました。しかし、7世紀末にはサクソン人の支配下となり、ウェセックス王国に組み込まれました。

789年には、ブリテン諸島初となるヴァイキングの攻撃がポートランド海岸で確認され、以後2世紀にわたってヴァイキングの攻勢にさらされました。

中世から近代

1066年のノルマン・コンクエスト以降、ドーセットには封建制が確立し、土地は聖俗諸侯の間で分割されました。ノルマン朝は、コーフ城、ウェアハム城、ドーチェスター城などを築き支配を強化しました。その後200年間でドーセットの人口は大幅に増加し、多くの土地が農場として囲い込まれました。毛織物貿易、パーベック・マーブルの採石、ウェイマス、マルコム・レジスなどでの商業により、ドーセットは繁栄しました。

しかし、1348年に腺ペストが持ち込まれると、ドーセットは壊滅的な被害を受けました。この疫病は急速に広まり、カウンティの人口の3分の1を奪いました。薔薇戦争では、初代デヴォン伯ハンフリー・スタッフォードの勢力圏となりましたが、戦後はジルズ・ドビニーがドーセットで有力となりました。

ヘンリー8世の修道院解散に対する抵抗はわずかで、多くの修道院が民間に払い下げられました。1642年のイングランド内戦では、当初は王党派が優勢でしたが、後に議会派が情勢を逆転させました。1645年には、クラブメンの一揆が発生しましたが、議会派に鎮圧されました。1685年にはモンマス公がライム・レジスに上陸し、モンマスの反乱が始まりました。反乱後には「血の巡回裁判」で多くの者が処罰されました。

18世紀には、密輸がドーセットの沿岸部で横行しました。プールはニューファンドランド漁業とのつながりを確立し、商業港として発展しました。しかし、石炭資源に恵まれなかったため、産業革命の恩恵は少なく、農業主体の経済が続きました。1834年には、トルパドル・マーサーズが労働組合を結成し、労働組合運動の始まりとなりました。

第一次世界大戦では、ドーセットシャー連隊がソンムの戦いで大きな損害を受けました。第二次世界大戦では、ドーセットがノルマンディー上陸作戦の準備拠点となり、多くの軍勢がドーセットの港から出発しました。

現代

戦後、ドーセットは観光地として人気を集め、海岸や海浜リゾート地、農村部には多くの観光客が訪れています。観光業は衰退傾向にある農業に代わり、州の基幹産業となっています。

気候

ドーセットは、グレートブリテン島の南岸に位置するため、夏は温暖で冬はおだやかです。大西洋から吹き付ける強風の影響は比較的少なく、冬の気温は平均4.5℃から8.7℃、夏の最高気温は19.1℃から22.2℃です。年間平均気温は9.8℃から12℃で、南海岸の各カウンティは日照時間がイギリスの他の地域よりも長く、年間1,541時間から1,885時間に上ります。年間降水量は地域によって異なり、沿岸部は700ミリから800ミリ、ドーセット・ダウンズ地方は1,000ミリから1,250ミリです。

人口統計

2001年の統計によると、ドーセット州の人口は390,980人です。州の人口の91.3%はイングランド生まれで、98.8%は白人です。78%はキリスト教徒であり、13.7%は特定の宗教を信仰していません。ドーセット州は高齢者の割合が多い州で、人口の25.9%が65歳以上です。出生率はイギリスで最も低く、死亡率は高い傾向にあります。

主要な産業

ドーセットの伝統的な産業は農業でしたが、機械化により農業従事者は減少しています。近年は競争が激化し、州経済における農業の割合は低下しています。一方で観光業は19世紀初めから主要産業の一つとなっており、多くの観光客が州を訪れています。

市町村

ドーセットには、多くの小さな村がありますが、大きな町はわずかしかなく、市と呼ばれるものはありません。最も大きな町はボーンマスとプールで、これらの町とその周辺地域が都市圏を形成しています。他にも州都のドーチェスターや観光地のウェイマスなどの主要な町があります。

交通

ドーセットには、ロンドンとの間に主要な鉄道路線が2本あります。また、高速道路が通っていない数少ないカウンティの一つです。主要道路としてはA303、A35、A31があり、州内各地を結んでいます。プール港からは、フランスへのフェリーが運航しています。ボーンマス空港からは定期便やチャーター便が発着しています。バス路線網も発達しており、特に主要な町の間では頻繁にバスが運行しています。

文化

ドーセットは、農村部が多いため文化的基盤は他の地域に比べると乏しいですが、ライトハウス芸術センター、ボーンマス国際センター、パビリオン劇場などがあります。州内には30以上の博物館があり、ドーセット博物館、ボービントン戦車博物館などが有名です。また、190か所の保全地区、1500以上の指定記念物、12,850か所の指定建築物があります。

ドーセットでは様々な催し物も行われており、グレート・ドーセット・スチーム・フェア、ボーンマス航空祭、スピリット・オブ・ザ・シーズ、ドーセット・カウンティ・ショーなどが知られています。また、音楽祭や民族音楽祭も開催されています。スポーツでは、AFCボーンマスがプレミアリーグに所属しています。クリケット、スピードウェイ、ウォータースポーツも盛んです。

文学

ドーセットは、小説家で詩人のトーマス・ハーディの出身地として知られています。ハーディは、サウス・ウェセックスという架空の地名でドーセットを舞台にした作品を多く残しています。他にもダグラス・アダムズ、ジョン・ル・カレ、トム・シャープ、ジョン・ファウルズなどの作家がドーセットにゆかりがあります。ドーセット方言は現在ではほとんど使われていません。

ドーセットの旗

ドーセットの旗は、2008年に制定され、金地に赤く縁取られた白い十字架のデザインです。この3色はカウンティ・カウンシルの紋章にも使用されており、金色はドーセットの砂浜などを表しています。

脚注

参考文献を参照

外部リンク

Dorset County Council
Dorset County Museum
The Dorset Echo
Dorset Wildlife Trust

Dorset Beach Guide


Dorset Genealogy heraldry and history

Photographs by Wikipedian Steinsky

Aerial photographs

参考文献

Blamires, Harry (1983). A Guide to twentieth century literature in English. London: Taylor & Francis. ISBN 978-0-416-36450-7.
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