ジョン・ロバート・カー

ジョン・ロバート・カー：激動の時代を生きた法律家

ジョン・ロバート・カー（John Robert Kerr、1914年9月24日 – 1991年3月24日）は、オーストラリアのニューサウスウェールズ州最高裁判事、そして第18代オーストラリア総督を務めた人物です。彼の生涯は、法曹界、政界での活躍と、その中で起きた数々の論争によって彩られています。

生い立ちと法曹界での活躍

シドニーの労働者階級に生まれたカーは、シドニー大学を卒業後、兵役を経て弁護士として活動を開始しました。労働組合の代理人を務めることが多く、その中で労働党に入党し、政治活動にも関わるようになります。しかし、ハーバート・エバット執行部の下での労働党の左傾化と、1955年の党分裂を経験し、政治に幻滅を覚えることになります。

1966年には連邦産業裁判所（2004年廃止）の裁判官に任命され、1972年にはニューサウスウェールズ州の首席判事に就任するなど、法曹界でのキャリアを着実に積み重ねていきました。

連邦総督への就任と首相罷免事件

1974年、カーは連邦総督に就任します。しかし、彼の総督としての任期は、1975年11月11日に発生した、ゴフ・ホイットラム首相の罷免という前代未聞の事件によって、大きな波紋を呼ぶことになります。

上院での予算案審議の拒否を理由に、カーはオーストラリア憲法64条の規定に基づいてホイットラム首相を罷免しました。この行為自体は憲法に違反するものではありませんでしたが、ホイットラムに罷免を通告した際、後継首相となるマルコム・フレーザーを総督公邸の別室に待機させ、組閣を命じたことなどが、総督が従うべき憲法的慣習に反するとして、大きな批判を浴びました。

この事件は、オーストラリアの政治史における大きな転換点となり、カーは労働党とその支持者から激しい非難を浴び続けることになります。

総督辞任後

体調不良を理由に、カーは1977年12月に総督を辞職しました。辞職に際して、当時の首相マルコム・フレーザーはカーをイギリスの枢密顧問官に推薦しましたが、当時のイギリス首相ジェームス・キャラハンに拒否されています。

その後、カーをユネスコ大使に推薦する動きもありましたが、当時の労働党党首ビル・ハイドンが「あらゆる点でこの国に対する侮辱」と強く反対したため、この計画は頓挫しました。

カー夫妻はその後、オーストラリアを離れて主にヨーロッパに滞在するようになり、目立った活動を行うこともなく、1991年にシドニーで亡くなりました。

ジョン・ロバート・カーの生涯は、法曹界での輝かしいキャリアと、総督としての決断がもたらした政治的な波紋によって、複雑な評価を受けています。彼の行動は、オーストラリアの政治史において、今後も議論の対象となり続けるでしょう。

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