ジョヴァンニ・ピサーノ

ジョヴァンニ・ピサーノ（Giovanni Pisano、1250年頃 - 1315年頃）は、中世イタリアを代表する彫刻家、画家、そして建築家です。彼の作品は、ゴシック様式と古典様式の融合という点で特筆され、後のルネサンス美術にも影響を与えました。父は著名な彫刻家ニコラ・ピサーノであり、ジョヴァンニは父の工房で修行を積みました。

生涯と作品

ジョヴァンニは、1265年から1268年にかけて、父ニコラとともにシエナ大聖堂の説教壇制作に携わりました。その後、ペルージャのフォンターナ・マッジョーレ（大噴水）の制作にも参加。父の死後、ジョヴァンニは独自の道を歩み始めます。初期の作品には父の影響が色濃く残りますが、次第に独自の様式を確立していきます。

ピサでは、洗礼堂の外装彫刻（1277年 - 1284年）を手がけました。これらの彫像は、父の静的な作風から離れ、より生き生きとした表現を追求しています。また、シエナ大聖堂の工匠頭（1287年〜1296年）に任命され、大聖堂のファサードの彫刻と建築デザインを担当しました。このファサードは、ゴシック様式とローマ美術の要素を巧みに融合させたものとして評価されています。

1296年にピサに戻ったジョヴァンニは、サン・ジョヴァンニ教会での仕事に着手しました。1297年から1301年にかけては、ピストイアのサンタ・アンドレア教会の説教壇を制作しました。この説教壇には、『受胎告知とキリスト誕生』、『東方の三博士の崇拝と夢』、『ヨセフへの天使の警告』、『幼児虐殺』、『最後の審判』など、聖書の場面を描いた5つのレリーフが飾られています。

ピサ大聖堂説教壇

ジョヴァンニの代表作として知られるのが、1302年から1310年にかけて制作されたピサ大聖堂の説教壇です。8枚のパネルを、6本の円柱と人物像が彫られた5本の柱が支える構造で、中央の柱には「信仰」「希望」「慈愛」を象徴する擬人像が彫られています。パネルには、「洗礼者ヨハネの誕生」「受胎告知」「マリアのエリザベト訪問」「キリスト降誕」「キリストの公現」「神殿奉献」「嬰児虐殺」「受難」「磔刑」「最後の審判」など、新約聖書の場面が浮き彫りで表現されています。各場面は動きのある人物像で構成され、明暗法（キアロスクーロ）の効果も用いられています。

この説教壇は、ジョヴァンニの作風が父ニコラのそれから大きく離れ、独自の表現を確立したことを示す好例です。大胆かつ自然主義的に描かれた裸のヘラクレス像は、特筆に値します。説教壇の中の『抜け目なさ』という彫刻は、マサッチオの『楽園追放』のイヴに影響を与えた可能性も指摘されています。

その他の作品と影響

ジョヴァンニは、ピサのサン・ニコラ教会の拡張（1297年 - 1313年）のデザインも担当したと考えられています。また、サン・パオロ・ア・リーパ・ダルノ教会のファサードも彼の作品です。晩年には、神聖ローマ皇帝ハインリヒ7世の依頼により、皇帝の亡妻マルガレーテ・フォン・ブラバント（1311年没）の墓碑制作（1313年頃から）に取り組みました。

ジョヴァンニ・ピサーノの作品は、フランスのゴシック様式と古典的な様式を融合させたものとして評価されています。彫刻家ヘンリー・ムーアは、ジョヴァンニを「最初の現代彫刻家」と呼びました。また、ジョヴァンニは画家ピエトロ・ロレンツェッティにも影響を与えました。ジョルジョ・ヴァザーリは、その著書『画家・彫刻家・建築家列伝』の中でジョヴァンニの伝記を記述しています。小惑星番号7313「ピサーノ」は、ジョヴァンニ・ピサーノとその父ニコラ・ピサーノを称えて命名されました。

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