ジョージ・アレグザンダー・マクファーレン

サー・ジョージ・アレグザンダー・マクファーレン

サー・ジョージ・アレグザンダー・マクファーレン（1813年3月2日 - 1887年10月31日）は、ヴィクトリア朝時代のイギリスを代表する作曲家、音楽学者、そして教育者でした。

生涯と視覚障害

ロンドンに生まれたマクファーレンは、幼い頃から虚弱体質であり、特に視覚に問題を抱えていました。7歳で寄宿学校に入学しますが、他の書物を読むには非常に強い眼鏡が必要で、拡大印刷された聖書を渡されるほどでした。視力の更なる悪化に伴い、10歳で学校を退き治療に専念しますが、残念ながら視力の衰えは止まらず、1860年には完全に光を失ってしまいます。

しかし、この深刻な視覚障害は彼の創作活動の終わりを意味しませんでした。彼は代筆者を雇うことで、視力を失った後の不自由を克服し、作曲を継続したのです。代筆者の中には、後に作曲家として名を成すオリヴェリア・プレスコットもいました。

プライベートでは、1844年にリューベック出身のオペラ歌手でピアニスト、そして多才な音楽家であったクラリーナ・タリア・アンドレ（後にナタリア・マクファーレンとして知られる）と結婚します。ナタリアは夫ジョージの作品の普及にも努め、歌唱指導や執筆、ドイツ語の詩やオペラ台本の英語への翻訳など、幅広い分野で活躍しました。また、ジョージの弟ウォルターや、もう一人の弟ジョンの妻エマ・マリアもピアニストや作曲家として活動しており、マクファーレン家は音楽と深く結びついていました。

マクファーレン自身は慢性的な気管支炎と心臓疾患に苦しんでいましたが、最期まで仕事のペースを緩めることはありませんでした。彼はロンドンのハンプステッド墓地に静かに眠っています。

音楽的キャリアと教育活動

14歳で音楽の道に進んだマクファーレンは、王立音楽アカデミーに16歳で入学し、作曲や器楽を学びました。視力障害により演奏活動は困難だったため、早くから作曲に専念するようになります。アカデミー在学中から作品を生み出し、1837年には母校の教授に就任しました。

教育者としてのマクファーレンは、保守的とされる和声理論を巡る議論に巻き込まれ、一時はアカデミーを離れます。この時期、彼は視力回復を願いニューヨークで治療を受けますが、成果はありませんでした。1851年、アカデミーの教育方針が変わり、彼は教授に復帰。そして1876年には、ウィリアム・スタンデール・ベネットの後任として王立音楽アカデミーの学長に就任し、イギリス音楽教育の中心的人物となります。同時期、彼はケンブリッジ大学の音楽科教授も務めました。

学術面では、ヘンデルの作品全集作成を目指すヘンデル協会を設立したほか、ベートーヴェンの「ミサ・ソレムニス」の分析や対位法の教科書といった理論書を出版しました。

主要作品と評価の変遷

作曲家としてマクファーレンは多作で、特にオーケストラ作品、オペラ、オラトリオといった大規模作品に力を注ぎました。彼の管弦楽曲では、序曲「追いかけっこ」が有名です。この曲は1843年にフェリックス・メンデルスゾーンの指揮によってライプツィヒで演奏され、メンデルスゾーンから絶賛されました。リヒャルト・ワーグナーもその独特な情熱的な性格を称賛したと記録されています。

オペラ分野では「チャールズ2世」や「ロビンフッド」の改訂版などが知られています。しかし、最も成功を収めたのはオラトリオでした。特に1873年に初演された「洗礼者聖ヨハネ」は、その後の彼の代表作となり、批評家からも高い評価を得ました。サロメの踊りの描写が、オラトリオに不似合いな官能性を排している点が特筆されました。他にも「復活」「ヨセフ」「ダビデ王」などのオラトリオを作曲しています。

生前のマクファーレンの音楽に対する評価は様々でした。その理論的な視点は独断的と見なされることもありましたが、彼の論理力と分析力は高く評価され、「音楽の文法家」とも評されました。教養ある人々からは、その作品の独自性や風流さが称賛されました。一部には、彼がより現代的な作曲技法を早くから取り入れていれば、更なる成功を収められたのではないかという見方も存在しました。

しかし、20世紀初頭になると、彼の作品は次第に演奏されなくなります。当時の音楽家組合は、その原因を「熱心に作曲せず書物ばかり書いていた」「自国の芸術のために熱意を持って励まなかった」こと、そして彼には才能はあっても「天才ではなかった」ためだという厳しい評価を下しました。

現代においては、マクファーレンは19世紀イギリスにおける管弦楽法の保守的な流派の重要な代表者として再評価されています。彼の音楽は「優しい抒情性」を持つと評される一方で、陳腐さを避けるために導入された予期せぬ進行が「ぎこちなさ」や「刺々しさ」として感じられる場合もあるとされます。しかしながら、オラトリオ「洗礼者聖ヨハネ」などは、メンデルスゾーンの「エリヤ」に隠れがちではあるものの、「独創的で想像力に富む作品」として改めて評価されています。視覚を失いながらも生涯作曲と教育に尽力した彼の功績は、イギリス音楽史において重要な一ページを占めています。

作品リスト抜粋

管弦楽曲: 交響曲（9曲）、序曲（追いかけっこ、ハムレットなど）、ピアノ協奏曲、ヴァイオリン協奏曲など
声楽曲: カンタータ（レノラ、メイ・デイなど）、オラトリオ（洗礼者聖ヨハネ、復活、ヨセフ、ダビデ王など）
オペラ: チャールズ2世、ロビンフッド、シー・ストゥープス・トゥ・コンカーなど
付随音楽: アヤックスなど

（注：上記作品リストは完全なものではありません）

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