ジョージ・スネル

ジョージ・デイヴィス・スネル

ジョージ・デイヴィス・スネル（George Davise Snell, 1903年12月19日 - 1996年6月6日）は、20世紀アメリカ合衆国の傑出した遺伝学者および移植免疫学者です。彼は、免疫応答、特に組織移植における拒絶反応を制御する遺伝的要因に関する画期的な発見により、移植免疫学の基礎を築きました。

生涯と学問への道

スネルは1903年、マサチューセッツ州ブラッドフォード近郊のハーバーヒルに誕生しました。三人兄弟の末子として育ち、ミネソタ州出身の父は地元のYMCAで事務職に就いていました。ブルックラインの学校で基礎教育を受けた後、ニューハンプシャー州ハノーバーのダートマス大学に進学。大学では数学と科学への関心を深め、これが後の遺伝学研究へと繋がります。1926年、ダートマス大学から学位を授与されました。

ダートマス大学教授ジョン・ゲローの推薦を受け、スネルはハーバード大学にてウィリアム・アーネスト・キャッスル（哺乳類におけるメンデルの法則研究の先駆者）と共に研究に従事しました。ここで、マウスを用いた遺伝学研究に深く関わり、1930年にはマウスの遺伝的連鎖に関する研究論文でハーバード大学より博士号（Ph.D.）を取得します。

博士号取得後、彼はテキサス大学オースティン校へ移り、放射線遺伝学のパイオニアであるハーマン・J・マラーの下で二年間、ポストドクトラル研究員として研鑽を積みました。この期間、マラーと共にX線照射がマウスに与える遺伝的影響について集中的な研究に取り組みました。

ジャクソン研究所での功績

1935年、スネルはメイン州バール・ハーバーにあるジャクソン研究所の研究員として着任し、その後、生涯にわたり同所を研究拠点としました。この地で家庭を持ち、三人の子供をもうけた彼は、研究の傍ら、余暇にはスキーやテニスといったスポーツに親しみました。

ジャクソン研究所において、スネルは免疫学分野における最も重要な発見の一つを成し遂げます。それは、マウスにおける主要組織適合複合体（MHC）遺伝子座、すなわちH-2抗原の発見です。この遺伝子群が、個体間で組織や臓器を移植した際に起こる拒絶反応を決定的に制御していることを、彼は精力的な研究を通じて明らかにしました。当初は移植片の生着に関わる要因として研究されていましたが、このH-2抗原（後にヒトのHLAに相当することが判明）は、その後、免疫細胞が自己と非自己を識別する仕組み、さらにはウイルス感染細胞やがん細胞を排除する仕組みにおいて、極めて中心的な役割を担っていることが明らかになりました。スネルのこの基礎的な発見は、移植医療のみならず、免疫学全体の発展に不可欠な基盤を提供したのです。

ノーベル賞とその後の活動

スネルの長年にわたる貢献は高く評価され、1980年、彼はバルフ・ベナセラフ、ジャン・ドーセと共にノーベル生理学・医学賞を授与されました。この栄誉は、「免疫学的相互作用を制御する遺伝的に決定される細胞表面構造に関する発見」に対して与えられたものであり、具体的には彼らが独立して行った主要組織適合性抗原（MHC）に関する研究業績が称えられたものです。彼のマウスにおけるH-2抗原の研究と、それが移植拒絶や免疫応答の遺伝的基盤であることを明らかにした功績は、免疫学の分野に革命をもたらしました。

ノーベル賞受賞後も、スネルは知的活動を続け、1988年には倫理に関する著作『Search for a Rational Ethic』を上梓しています。彼は1996年6月6日、長年研究活動を行ったバール・ハーバーにて92歳で逝去しました。

主な栄誉

1976年：ガードナー国際賞
1978年：ウルフ賞医学部門
1978年：ウィリアム・コーリー賞
1980年：ノーベル生理学・医学賞

スネルのMHCに関する研究は、今日の免疫学、移植医療、そして免疫遺伝学における不可欠な知識の礎石となっています。彼の貢献は、多くの人命を救う移植医療の進歩に直接的に繋がるものであり、科学史にその名を刻んでいます。

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