ジョージ・バークリー

ジョージ・バークリー：観念論の哲学者

ジョージ・バークリー(1685年-1753年)は、アイルランド出身の哲学者にして聖職者です。その哲学は、経験論を基盤としながらも、独自の観念論を展開し、現代哲学にも大きな影響を与えました。主著である『人知原理論』をはじめとする著作群は、彼の思想を深く理解する上で欠かせません。

生涯：アイルランドからアメリカ、そして主教へ

バークリーは、アイルランドのキルケニーに生まれました。父は軍人だったと伝えられています。キルケニー大学を経て、ダブリンのトリニティ・カレッジで修士号を取得し、同大学でフェローとして教鞭を執ります。

彼の哲学的な思索は早くから始まり、1709年には『視覚新論』、翌年には『人知原理論』を発表、さらに1713年には『ハイラスとフィロナスとの三つの対話』を著しました。これらの著作を通じて、彼の独創的な哲学体系が徐々に形作られていきます。

トリニティ・カレッジで神学博士号を取得した後、バークリーはアメリカ大陸への移住を試みます。ロードアイランドに神学校を設立しようとしましたが、資金不足により計画は頓挫し帰国することになります。その後、アイルランド国教会の主教に叙任され、聖職者としての道を歩みながら、哲学研究を続けました。1753年、彼の生涯に幕を閉じました。

思想：存在とは知覚されること

バークリー哲学の中核をなすのは、「存在することは知覚されることである」(Esse est percipi)という命題です。これは、物事の存在は、それを知覚する精神の存在に依存することを意味します。つまり、知覚されないものは存在しない、という主張です。

この考え方は、ジョン・ロックの経験論を踏まえた上で展開されました。ロックは、人間の知識は経験から生じるものだと主張しましたが、バークリーは、その経験そのもの、つまり知覚をより重視しました。私たちが認識するのは、物そのものではなく、物から生じる観念であるというわけです。

『ハイラスとフィロナスとの三つの対話』では、素朴実在論を主張するハイラスと、バークリー自身の考えを代弁するフィロナスとの対話を通して、この観念論が丁寧に説明されています。

バークリーは、物質の存在を否定しました。彼によれば、感覚的な観念の原因は神であり、真に実体として存在するのは、知覚する精神と神のみです。この考え方は、主観的観念論、あるいは独我論と批判されることもありました。

彼は、物質を実体として認めることが唯物論的無神論につながると考え、聖職者としての立場から、魂の不滅と神の存在を結びつける必要性を感じていたのです。

さらに、バークリーは抽象観念の存在も否定しました。「机」や「パソコン」といった具体的な観念から、それらを一般化した抽象的な概念は存在しないと主張したのです。これは、プラトンのイデア論とは対照的な立場であり、唯名論的な考え方といえます。

ニュートンへの批判と数学

バークリーは、数学にも関心を持ち、ニュートンの微積分法、特に流率法を批判しました。彼は、流率法における極限の概念が曖昧であり、厳密な数学ではないと指摘しました。微分におけるdtを0と置く操作について、矛盾点を指摘することで、当時の数学の基礎に疑問を呈したのです。

影響とその後

バークリーの哲学は、現代哲学にも多大な影響を与えています。カリフォルニア大学バークレー校の名前は、彼にちなんで名付けられたものです。彼の著作は、現在も広く読まれ、研究されています。その思想は、哲学のみならず、数学、宗教、そして認識論全般にわたる深い洞察を提供し続けています。

主要著作

『視覚新論』(An Essay towards a New Theory of Vision, 1709)
『人知原理論』(A Treatise Concerning the Principles of Human Knowledge, 1710)
『ハイラスとフィロナスとの三つの対話』(Three Dialogues between Hylas and Philonous, 1713)
『アルシフロン あるいは小粒な哲学者』(Alciphron, 1732)
『アナリスト』(The Analyst, 1734)
『サイリス』(Siris, 1744)

これらの著作は、彼の哲学思想を理解する上で重要な手がかりとなります。彼の緻密な論理展開と、宗教、数学、認識論といった多様な分野への関与は、現代においても多くの研究者や哲学愛好家を魅了し続けています。

もう一度検索