唯名論

唯名論とは

唯名論（ゆいめいろん、Nominalism）は、哲学、特に形而上学の分野における重要な立場の一つです。その核心は、普遍的な概念や抽象的な対象が、個別の具体的な事物に先行して実在するのか、それとも単なる名前に過ぎないのかという問いにあります。

普遍論争における唯名論

唯名論は、中世のスコラ哲学における普遍論争の中心的なテーマでした。普遍論争とは、「人間」「犬」「バラ」などの類概念が、実体として存在するかどうかを巡る議論です。唯名論は、これらの類概念は単なる名前であり、実在するのは個々の具体的な事物であると主張します。これに対し、実在論（または普遍実在論）は、類概念が個物とは独立した形で存在すると主張しました。

様々な抽象的対象についての唯名論

唯名論は、普遍概念だけでなく、数学的対象や道徳的価値など、様々な抽象的な対象についても適用されます。これらの対象が客観的に実在するのではなく、人間の思考や言語によって生み出された概念に過ぎないと考える立場が唯名論です。

唯名論の歴史

古代ギリシャ

唯名論と対立する実在論の最初の提唱者は、プラトンであると考えられています。プラトンは、イデア論において、普遍的なイデアが個々の事物に先行して存在すると主張しました。

一方で、アリストテレスはプラトンのイデア論を批判しつつも、実在論の立場も完全に否定していたとされます。ストア派の哲学者、特にクリュシッポスは、唯名論の立場を明確に示した最初の哲学者とされています。

中世思想

中世においては、フランスの哲学者、神学者のコンピエーニュのロスケリヌスが初期の唯名論者として知られています。ピエール・アベラールの著作を通して唯名論の考え方が広まり、オッカムのウィリアムによってその思想は頂点を迎えました。

アベラールやオッカムは、概念論（概念主義）と呼ばれる、唯名論と実在論の中間的な立場を主張しました。オッカムは、普遍的なものは、個人の集合を指す心的な方法に過ぎないと述べました。また、彼は、説明に必要な実体を仮定することを避けるべきであるという「オッカムの剃刀」の原則を提唱しました。

概念論は、普遍性が心的な問題にのみ答えを与えるという批判があります。同じ概念が複数の個人に適用されるならば、その個人間には類似性があるはずであり、それが普遍性の問題提起であり、概念論は実在論または唯名論に帰結するという批判です。

近代・現代思想

近代哲学においては、トマス・ホッブズとピエール・ガッサンディが唯名論を復活させました。現代の分析哲学者の中にも、ルドルフ・カルナップ、ネルソン・グッドマン、H・H・プライス、D・C・ウィリアムズなどが唯名論を支持しています。

普遍論争

中世ヨーロッパのスコラ哲学において、普遍論争は非常に重要な議論でした。この論争で唯名論は、類概念は実在せず、単なる名前に過ぎないと主張しました。

実在するのは、具体的な個物であり、概念の形相（フォルマ）ではありません。これは、実念論（普遍実在論）の立場とは対照的です。実念論は、「バラ」や「猫」などの類概念が、形相として実在すると主張しました。

13世紀末以降、理性が信仰から独立していく中で、唯名論が優勢となりました。フランシスコ会士のオッカムなどが、唯名論の立場をとりました。唯名論は、「via moderna」と呼ばれることもあります。

まとめ

唯名論は、普遍的な概念や抽象的な対象の存在に関する哲学的な立場の一つです。中世の普遍論争における重要な立場であるとともに、現代哲学においても様々な議論の根底に存在しています。

唯名論は、私たちの認識や言語がどのように現実を捉えるのか、そして、抽象的な概念がどのように意味を持つのかについて、深く考察する機会を与えてくれます。

参考文献

Nominalism in Metaphysics （英語） - スタンフォード哲学百科事典「唯名論」の項目。
『唯名論』 - コトバンク

関連項目

普遍論争
実在論
反実在論
オッカムのウィリアム
* 構造主義

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