ジル・エアネス

概要

15世紀ポルトガルの航海士、探検家。エンリケ航海王子の下で活躍し、長年越えられないとされたボハドル岬の周回に成功。その後のポルトガルによるアフリカ沿岸探検、ひいては大航海時代の重要な突破口を開いた人物である。

生涯

前半生と航海の始まり

ジル・エアネスの私生活については、大航海時代の活躍が始まる以前のことはほとんど知られていない。エンリケ航海王子の使用人や盾持ちだった可能性が推測されている。出身地はポルトガル南部のアルガルヴェ地方にあるラゴスで、彼の主要な航海拠点もこの街であった。

ボハドル岬への最初の挑戦

1433年、エアネスはエンリケ王子の組織した遠征隊に加えられることになった。王子からは、当時の技術水準では越えられないとされた難所、ボハドル岬を周回するという重要な任務と共に、比較的大きな船と十分な人員が与えられた。

ラゴスを出港したエアネスは、アフリカ西海岸沿いを南下するという未知の航海に挑んだ。しかし、ボハドル岬に到達することなく、進路を西へ変えカナリア諸島へと向かった。そこでエアネスは、ボハドル岬からは遠く離れた場所で穏やかに暮らしていた現地の人々を捕らえ、捕虜としてサグレスへ連れ帰った。そして、航海の途中で遭遇した危険を失敗の言い訳とし、捕虜をエンリケ王子への詫びの品としたのである。

帰還したエアネスを待っていたのは、王子からの冷遇と次の航海の延期だった。王子は、あくまでボハドル岬を周回して帰ってくるという使命の達成をエアネスに期待していたのだ。

困難な岬の克服と歴史的転換

失敗を挽回する機会を強く望んだエアネスに、翌年の1434年、再びボハドル岬への挑戦が許された。エアネスは自身が操るバーケンティン型キャラベル船と乗組員と共に岬を目指し、ついにそれまで多くの船が行く手を阻まれたボハドル岬を周回し、サグレスへ無事帰還することに成功した。

帰還後、エアネスは王子の前で航海の詳細を報告した。報告には、通過した海域の水質や地質、そして岬を通過することの困難さに関する情報が含まれていた。また、航海成功の証として、ボハドル岬の向こう側で採取した植物もいくつか持ち帰った。

ジル・エアネスによるボハドル岬越えの成功は、ポルトガルによるアフリカ沿岸探検にとって極めて重要な突破口となった。これは、それまでヨーロッパ人にとって未知の領域とされていたアフリカ大陸への道が開かれた歴史的な瞬間であり、その後の大航海時代の幕開けを告げるものであった。

さらなる探検と発見

ボハドル岬を越えた翌年の1435年、ジル・エアネスはアフォンソ・バルダイアと共にさらなる探検航海に出た。二人は協力し、ボハドル岬から南へさらに約30リーグ（約144 km）あるいは50リーグ（約240 km）ほど進んだアフリカ沿岸に到達した。

この航海では、直ちに住民を発見することはできなかったものの、航海を終えるまでに人が生活していた痕跡を確認するなど、探検家としての優れた成果を残している。彼らは停泊した小さな湾を「Angra dos Ruivos」、すなわち「赤い入り江」と命名した。この名前は、その水域にガーネットのように赤い魚が数えきれないほど泳いでいたことに由来するとされる。

後世への影響

ジル・エアネスの功績は、後世に様々な形で称えられている。出身地であるポルトガルのラゴス市には、その名を冠した広場がある。また、カーボベルデのサン・ヴィセンテ島にあるミンデロ市には、かつて彼の名を冠した学校「Liceu Gil Eanes」が存在した。この学校は1930年代には島の最高学府であり、現在は「Escola Jorge Barbosa」としてカーボベルデ大学の一部となっている。

さらに、1955年に就役したポルトガル海軍の病院船「Gil Eannes」も彼の名に因んで命名された。この船は退役後、ヴィアナ・ド・カステロに係留され、現在は記念艦（博物館・ユースホステル）として活用されている。

まとめ

ジル・エアネスは、ポルトガル大航海時代の黎明期において、ボハドル岬という心理的・物理的な難所を最初に克服した航海士として、歴史にその名を刻んでいる。彼の探検は、その後のポルトガルによるアフリカ沿岸探検の幕開けを告げるものであり、世界の歴史を大きく動かす一歩となった。

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