ジーリグ・エシュハー

ジーリグ・エシュハー

ジーリグ・エシュハー博士は、1941年に生まれたイスラエルの卓越した免疫学者です。現在のワイツマン科学研究所教授であり、特にがん免疫療法の分野において、革命的な治療法であるCAR-T細胞療法の開発を主導したことで世界的に知られています。彼の研究は、難治性がんに対する新たな治療戦略を切り開き、多くの患者に希望をもたらしています。

生い立ちと学術的背景

エシュハー博士は、イギリスの委任統治領下にあったパレスチナのレホヴォトで、ポーランドからのユダヤ人入植者の家庭に生まれました。イスラエル建国前後の激動期に育ち、国防軍での兵役を経験しました。除隊後は、農業に従事するためキブツでの生活を送りました。この多様な経験は、彼のその後の人生と研究に対する姿勢に影響を与えたかもしれません。

学問への道は、まずヘブライ大学農学部への入学から始まりました。卒業後、第三次中東戦争への召集という経験を経て、再び学術の世界に戻ります。同大学院で生化学の修士号（M.Sc.）を取得した後、ワイツマン科学研究所に進学し、免疫学で博士号（Ph.D.）を取得しました。これは、彼の研究者としての専門分野を確立する重要なステップとなりました。

研究キャリアとCAR-T細胞の開発

博士号取得後、エシュハー博士は更なる研鑽を積むため、アメリカ合衆国へ渡ります。ハーバード大学医学大学院の著名な免疫学者であるバルフ・ベナセラフ教授の研究室で、ポスドク研究員として貴重な経験を積みました。この時期に培われた知識と技術が、その後の画期的な研究へと繋がっていきます。

1976年にイスラエルへ帰国し、ワイツマン科学研究所の研究助手としてキャリアを再開しました。長年にわたる地道な研究と革新的なアイデアを追求し続け、1994年には同研究所の教授に昇進しました。彼の研究の中心となったのが、後にがん治療に革命をもたらすことになるCAR-T細胞療法の開発です。

CAR-T細胞療法は、患者自身のT細胞（免疫細胞の一種）を体外に取り出し、遺伝子工学を用いてがん細胞を特異的に認識・攻撃するためのキメラ抗原受容体（CAR）を発現させるように改変し、再び体内に戻すという画期的なアプローチです。エシュハー博士は、この概念の提唱者の一人であり、基礎的な技術確立に大きく貢献しました。これにより、従来治療が困難であった一部の血液がんなどに対して、劇的な効果を示す新たな治療選択肢が生まれました。

また、エシュハー博士はワイツマン科学研究所での活動に加え、2012年からはテルアビブ大学医学部でも客員教授として教育・研究に貢献しています。

主要な受賞歴

エシュハー博士の研究とその医学への貢献は、国内外で高く評価されています。これまでに数々の権威ある賞を受賞しており、その一部を以下に示します。

2014年 - マスリー賞
2015年 - イスラエル賞
2019年 - ウィリアム・コーリー賞
2021年 - ダン・デイヴィッド賞
2024年 - ガードナー国際賞
2024年 - ウォーレン・アルパート財団賞

これらの受賞は、彼のCAR-T細胞開発が基礎研究のブレークスルーであるだけでなく、臨床応用につながる可能性を秘めた、極めて重要な業績であることを物語っています。特に近年立て続けに主要な医学・科学賞を受賞していることは、CAR-T療法が臨床現場で成果を上げ、社会に大きな影響を与えていることの証と言えるでしょう。

ジーリグ・エシュハー博士の生涯にわたる研究は、がん免疫療法のフロンティアを押し広げ、多くの患者の命を救う可能性を現実のものとしました。彼の先駆的な業績は、今後の医学研究、特に免疫療法の発展に計り知れない影響を与え続けていくことでしょう。

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