ジーン・レオン・ジェローム・フェリス

アメリカ合衆国の画家、ジーン・レオン・ジェローム・フェリス（1863年 8月8日 - 1930年 3月18日）は、自国の歴史における重要な場面を多数描いたことで知られています。彼が生涯をかけて制作した、78点の絵画からなる連作「国家のページェント（The Pageant of a Nation）」は、特に有名です。

生い立ちと初期の学び

フェリスは1863年、ペンシルベニア州フィラデルフィアに生まれました。彼の父、スティーブン・ジェームズ・フェリスもまた肖像画家でした。父スティーブンは、フランスの著名な歴史画家ジャン＝レオン・ジェロームと、イタリアの画家マリアノ・フォルトゥーニを深く尊敬しており、息子にジャン＝レオン・ジェロームから名前の一部を取って「ジーン・レオン」と名付けました。この名前には、父の芸術への憧憬と息子への期待が込められていたのでしょう。また、彼の叔父には、有名な画家兄弟であるエドワード・モランとトーマス・モランがいました。このように、フェリスは芸術家一家という環境で育ちました。

絵画の手ほどきは、まず父や叔父のエドワード・モランから受けました。その後、1879年からはフィラデルフィアのペンシルベニア美術アカデミーで本格的に学びます。さらに、1883年初頭にはフランスへ渡り、パリの私立美術学校アカデミー・ジュリアンに入学。当時人気の高かったウィリアム・アドルフ・ブグローの指導を受けました。パリ滞在中には、父がその名を借りたジャン＝レオン・ジェローム本人と会う機会も得ました。この出会いはフェリスにとって重要な転換点となります。ジェロームから「画家として大切なことは自分のよく知っていることを描くことだ」という助言を受けたとされており、これが後にアメリカの歴史を描くという彼のライフワークを決定づける契機となったと言われています。

画業の展開と「国家のページェント」

フランスから帰国したフェリスは、当初、当時のヨーロッパ美術界で流行していた「オリエンタリズム」（東洋趣味）の作品を描きました。これは、師であるブグローやジェロームも手がけていたジャンルでした。彼は展覧会に出品を重ね、徐々に評価を高めていきます。1895年までには、特に歴史画の分野で確固たる評価を得るようになりました。

ジェロームからの助言に触発されたフェリスは、アメリカ史の主要な出来事を描く絵画シリーズの制作に着手します。この壮大なプロジェクトは「国家のページェント」と名付けられました。シリーズ最初の作品の一つは、1898年にアメリカ独立戦争時のイギリス軍総司令官ウィリアム・ハウを題材として描かれたとされています。

フェリスは、このシリーズの原画の取り扱いに関して独特の方針をとりました。最初の作品は収集家に売却しましたが、以降のシリーズ作品については、原画がバラバラになることを避けたいと考えました。そこで、原画そのものは手放さず、代わりに様々な美術出版社にその複製権を販売するというスタイルを採用したのです。この戦略が、フェリスの歴史画を広く一般の人々に知らしめる大きな要因となりました。

大衆への普及と後世

出版社は、複製権を得たフェリスの歴史画を、絵葉書、カレンダー、広告用のトレーディングカードなど、様々な形で出版しました。これらの複製画は安価で手軽に入手できたため、一般家庭に広く普及し、フェリスの描くアメリカ史の場面は多くの人々に親しまれるようになりました。彼の複製画は非常に人気が高く、その販売は1980年代まで続けられたといいます。

一方、原画はフェリス家によって大切に管理されました。後年、これらの原画はスミソニアン協会など様々な場所に貸し出され、全米各地で展示される機会が増えました。これにより、複製画で親しんでいた多くの人々が、原画を目にする機会も得ることができました。

ジーン・レオン・ジェローム・フェリスは、1930年 3月18日、生まれ故郷であるフィラデルフィアでその生涯を閉じました。彼の「国家のページェント」シリーズは、アメリカ合衆国の歴史教育において視覚的な資料としても機能し、後世にわたって多くの人々にアメリカの歴史への関心を促す役割を果たしました。彼の作品は、単なる芸術作品としてだけでなく、アメリカの国民的記憶を形作る一助となったと言えるでしょう。

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