スイレン属

スイレン属（Nymphaea）

スイレン属は、スイレン科に属する水生植物のグループで、その美しい花と水面に浮かぶ葉が特徴です。世界中に約50種が分布し、観賞用として広く栽培されています。日本では、ヒツジグサが唯一の自生種です。スイレン属の植物は、その多様な形態、生態、そして人間との関わりにおいて、非常に興味深い特徴を持っています。

特徴

スイレン属は、多年生の浮葉植物であり、地下茎から長い葉柄を伸ばし、水面に浮く葉を展開します。地下茎の形状は種によって異なり、直立するものから横に這うものまであります。葉は、水中に留まる沈水葉や水上に出る抽水葉を持つこともありますが、多くは水面に浮かぶ浮水葉です。葉の形は、基部が深く切れ込んだ心形や矢じり形、または葉柄が葉裏につき楯状になるものがあります。葉の縁は全縁または鋸歯状です。

花は、地下茎から伸びた花柄の先に一つずつ咲き、水面または水上に出ます。萼片は4枚で、しばしば果実が成熟するまで残ります。花弁は5枚から多数で、らせん状または輪状につきます。花の色は、白、黄、赤、紫、青など様々です。雄しべは多数あり、子房側面につき、外側の雄しべは花弁と連続的です。雌しべは、多数の心皮が合着して形成され、柱頭盤を持ちます。柱頭の外側には、偽柱頭と呼ばれる突起があります。子房は中位で、心皮数の部屋に分かれ、内面に多数の胚珠がつきます。果実は水中で熟し、不規則に裂開して種子を放出します。種子は球状から楕円形で、仮種皮に覆われています。

分布と生態

スイレン属は、熱帯から温帯地域にかけて、世界中に分布しています。湖沼や緩やかな河川などに生育し、一部の種は温泉のような特殊な環境にも適応しています。花は基本的に雌性先熟であり、自家受粉を避ける仕組みを持っています。開花時間は種によって異なり、昼咲きと夜咲きの種があります。特に夜咲きの種は、強い香りを放ち、甲虫によって花粉媒介されます。昼咲きの種は、主にハチやハエによって花粉媒介されます。

人間との関わり

スイレンは、その美しい花のために観賞用として広く栽培されており、多くの園芸品種が作出されています。古代エジプトでは、装飾や信仰の対象とされていました。クロード・モネは、スイレンを題材にした多くの絵画を描いています。

観賞用のスイレンは、耐寒性の有無によって温帯スイレンと熱帯スイレンに分けられます。温帯スイレンは耐寒性があり、葉は全縁で花は水面に浮かびます。一方、熱帯スイレンは耐寒性がなく、葉に鋸歯があるものが多く、花は水面から抜き出て咲きます。熱帯スイレンには、昼咲きと夜咲きの種類があります。

主な園芸品種

温帯スイレン
'アーカンシェル'：淡いピンク色の花弁と斑入りの葉が特徴。
'ダーウィン'：ピンク色の花弁で、基部が赤みを帯びています。
'エスカボークル'：鮮やかな赤い花弁。
'ジェイムズ・ブライドン'：濃いピンク色の花弁で、幅広です。
'オドラータ・スルフレア'：細長い白色の花弁。
'ピーチ・グロウ'：ピンクがかった淡いクリーム色の花弁。
'オールモスト・ブラック'：黒い花の中心が赤黒い、温帯と熱帯の交配種。

熱帯スイレン
'アルバート・グリーンバーグ'：基部がオレンジ色で、ピンク色の花弁。
'ミッドナイト'：細長い濃紫色の花弁。
'ペルシアンライラック'：ピンク色の花弁で数が多い。
'ピンク・パール'：淡いピンク色の花弁。
'サザン・チャーム'：青色で基部が淡黄色の花弁。
'ティナ'：明るい青紫色の花弁。
'レッド・フレア'：濃赤色の花弁で、夜咲き性。

日本での栽培史

日本には、もともとヒツジグサのみが自生していましたが、明治時代に外国産のスイレンが導入され、栽培が始まりました。大正時代には同好会が作られるほど愛好家が増え、多くの品種が育成されました。

外来種問題

スイレン属の種は、広く栽培されているため、本来分布していない地域に帰化し、生態系に悪影響を与えることが問題となっています。日本では、園芸種のスイレンが特定外来生物に指定されています。

食用・薬用

スイレン属のいくつかの種は、地下茎や種子が食用とされています。また、古代エジプトでは薬用としても利用されており、現在でも生薬として用いられることがあります。ただし、アルカロイドが含まれている場合があるため、食用には注意が必要です。

文化

古代エジプトでは、スイレンが太陽神の誕生や再生の象徴とされ、装飾品として使われていました。また、マヤ文明でも、スイレンが装飾に用いられていました。

系統と分類

スイレン属は、コウホネ属、バルクラヤ属、オニバス属、オオオニバス属とともにスイレン科に分類されます。スイレン科は、被子植物の中で初期に分岐したグループと考えられています。分子系統学的研究により、オニバス属とオオオニバス属がスイレン属に含まれることが示唆されており、分類の見直しが進められています。オンディネア属も、現在ではスイレン属に組み込まれています。

ギャラリー

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脚注

注釈

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出典

(ここに参考文献が入ります)

関連項目

スイレン科、コウホネ属、バルクラヤ属、オニバス属、オオオニバス属
睡蓮 (モネ)
ハス

外部リンク

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