子房

子房：被子植物の繁殖を支える器官

被子植物の花を構成する重要な器官の一つに子房があります。子房は、柱頭と花柱とともに雌蕊を形成し、その基部に位置する袋状の器官です。子房の内部には胚珠が含まれており、受精が行われると果実に発達します。これは被子植物と裸子植物を区別する大きな特徴の一つで、裸子植物では胚珠がむき出しになっているのに対し、被子植物では子房が胚珠を保護しています。

子房という名称は、1858年に出版された『植物学』で初めて使われ、その後一般的に使われるようになりました。ちなみに、英語のovaryは動物学では卵巣を意味します。

子房と心皮：数の関係

雌蕊は、心皮と呼ばれる葉が変化した器官が複数合着して構成されています。心皮は胚珠を包み込み、その基部がくぼんで子房を形成すると考えられています。

子房は、その形成過程から単一子房と複合子房に分類されます。単一子房は1つの心皮からなり、子房室は1つだけです。モクレン科やキンポウゲ科などにみられます。一方、複合子房は複数の心皮が合着して形成され、子房室は複数ある場合と1つしかない場合があります。ヤナギ科やキク科などは、心皮が2つ合着して1つの子房室を持つ複合子房です。複合子房では、胚珠を着生しない心皮や、子房室の形成に関与しない心皮が存在する場合もあります。

子房の構造：詳細な解剖

雌蕊の先端から基部に向かって、柱頭、花柱、子房と続きますが、これらの境界は必ずしも明確ではありません。子房は胚珠を収容する空間であり、その壁を子房壁または側壁と呼びます。成熟すると果皮となり、内果皮、中果皮、外果皮の3層構造を持つことが多く、内果皮が肉質であれば果肉、硬ければ核と呼ばれます。子房内部の胚珠を包む空間を子房室と呼びます。複合子房では、隔壁によって子房室が仕切られることがありますが、隔壁がない場合や、不完全な隔壁（偽隔壁）を持つ場合もあります。

胚珠が付着する子房内壁の部分を胎座と呼び、その形態は多様です。また、フウロソウ科などでは、子房の中央に心皮間柱と呼ばれる柱状の組織が発達しているのが特徴です。

子房の位置：分類上の重要な指標

子房は他の花器官との位置関係によって、上位子房、下位子房、周位子房、中位子房に分類されます。

子房上位

子房が他の花器官よりも上に位置する状態を子房上位といいます。これは双子[[葉植物]]の原始的な形質と考えられており、モクレン類や多くの単子葉植物に見られます。カキの果実の基部に残る萼は、子房上位であることを示す証拠です。

子房下位

子房が他の花器官よりも下に位置し、花床筒と癒合している状態を子房下位といいます。キク科やウリ科など、多くの進化した被子植物に見られます。キュウリやリンゴの果実の先端にある花器官の痕跡は、子房下位であることを示しています。

子房周位と子房中位

子房の周囲に萼筒が形成され、子房とは癒合していない状態を子房周位といい、バラ科などに多く見られます。萼筒が子房と部分的に癒合する状態を子房中位といい、ユキノシタ科などにみられます。子房中位は、癒合の程度によって半上位と半下位にさらに分類されることもあります。

子房の位置は、植物の分類において重要な形質の一つであり、様々な植物の系統進化を理解する上で重要な役割を果たします。様々な植物の子房を観察し、その構造や位置関係を理解することで、植物の多様性と進化の過程をより深く知ることができます。

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