スウィーニー・トッド

スウィーニー・トッド：ロンドンの悪魔の理髪師

19世紀半ば、ロンドンのフリート街に、悪名高き理髪師スウィーニー・トッドがいたと伝えられています。彼は、一見普通の理髪店を営んでいましたが、その椅子には恐るべき仕掛けが隠されていました。裕福な顧客を地下室へと落とし、剃刀で喉を掻き切り、金品を奪うという残虐な殺人鬼だったのです。

多くの物語では、トッドは愛人あるいは共犯者であるパイ屋の女主人と共謀していました。女主人（名前は物語によって様々です）は、トッドの犠牲者の遺体を解体し、その肉をミートパイの材料として使用。何も知らずにパイを食べた客たちは、想像を絶する事態に巻き込まれたのです。

さらに、トッドにはトビアス・ラッグという若い見習いがいました。当初はトッドの犯行に気づいていませんでしたが、物語の後半では事件の真相解明に重要な役割を果たします。また、トッドは若い恋人たちの駆け落ちに協力したり、妨害したりと、複雑な関わりを持つ人物としても描かれています。

トッドの正体：実在の人物か虚構か？

スウィーニー・トッドは完全に架空の人物とは言い切れません。作家ピーター・ヘイニングは、著書の中でトッドが1800年頃に実在した人物だと主張しています。しかし、その主張の裏付けとなる証拠は提示されておらず、他の研究者たちによって検証もされていません。

一方で、フランスのパリにも似たような伝説があり、ラルプ通りで起きたとされる理髪師とパン屋の猟奇殺人事件がトッドの物語の原型になった可能性も指摘されています。

物語の起源と広がり

トッドが登場する最初の記録は、1846年にイギリスの犯罪雑誌『ピープルズ・ピリオディカル』に掲載された「The String of Pearls: A Romance」という物語のようです。著者は、多くの恐ろしい悪役を生み出したトーマス・ペケット・プレストです。プレストは、実話を基にした作品を多く手がけており、タイムズ紙の犯罪記事から着想を得ていたとされています。

さらに古い記録として、1825年にロンドンで出版された『ザ・テリフィック・レジスター』誌にも、パリの理髪師とパン屋の物語が掲載されていました。この物語では、理髪師が顧客を殺害し、パン屋がその遺体をパイにしていたとあります。この物語は、スウィーニー・トッドの物語の初期バージョンと言えるかもしれません。

イギリスの物語では、トッドは1802年にオールドベイリーで裁判を受け、タイバーンで絞首刑に処せられたとされていますが、裁判記録や当時の報道記事は見つかっておりません。そもそも18世紀末にはタイバーンでの絞首刑は廃止されていたため、この記述は事実とは異なる可能性が高いです。また、トッドがスコットランドのフォレスに逃亡し、そこで死亡したという噂もあります。

ミートパイを用いた証拠隠滅という手法は、19世紀初頭の都市伝説だったと考えられます。1843年のチャールズ・ディケンズの小説『マーティン・チャズルウィット』にも、同様の噂が描かれています。

ヘイニングの主張

ヘイニングは、トッドが実在の人物だったと主張し、彼は母親から愛されながらも父親から虐待され、その経験が犯行に繋がったと推測しています。しかし、これも裏付けとなる確かな証拠はありません。

まとめ

スウィーニー・トッドは、その猟奇的な犯行と謎めいた出自により、人々の想像力を掻き立て、多くの小説、映画、ミュージカルなどの作品を生み出してきました。実在の人物だったのか、それとも完全に架空の人物だったのかは今も謎のままですが、その物語は人々の恐怖と好奇心を呼び起こし、語り継がれ続けているのです。彼の物語は、19世紀の社会の暗部や、人間の深淵を映し出す鏡と言えるでしょう。様々な解釈がなされるスウィーニー・トッドの物語は、これからも多くの人々を魅了し続けることでしょう。

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