タイバーン

タイバーン：ロンドンの歴史と影を刻む場所

ロンドンのハイドパークの一角、かつてテムズ川に注ぐ小川が流れていた場所、それがタイバーンです。現在は地下を流れる小川の名を冠したこの地は、中世から18世紀にかけて、イギリスで最も悪名高い刑場として機能していました。その歴史と、人々の記憶に深く刻まれたタイバーン刑場の恐ろしい光景、そして意外な言葉遊びまでを紐解いていきましょう。

タイバーンの歴史：荘園から処刑場へ

タイバーンは、ミドルセックス州にあった荘園で、その歴史は古く、ドゥームズデイ・ブックにもその名が記されています。オックスフォード街の西端に位置し、タイバーンロード、タイバーンレインと呼ばれる道が村へと続いていました。この地には「オズウルフの石」と呼ばれる、ミドルセックスの村の単位を示す目印がありました。この石は、1822年にマーブルアーチの建設に伴い一時地下に埋められましたが、後に掘り起こされ、アーチの支えとして再利用されたのち、1869年に再び人々の目から消えました。

タイバーン刑場：公開処刑の舞台

1196年、重税に対する暴動の首謀者であるウィリアム・フィッツ・オズバーンが、タイバーンで最初の死刑執行者となりました。その後、1571年には現在のマーブルアーチ付近に「タイバーンツリー」と呼ばれる絞首台が設置され、数多くの重罪犯がここで公開処刑されました。「タイバーンツリー」とは、三角形に配置された３本の木からなる絞首台を指します。

処刑は、非常に多くの人々を引きつけました。見物席を設置して料金を徴収する者も現れ、時にはその見物席が崩壊する事故も発生したほどです。1649年には、23人の男と1人の女が一度に処刑された記録も残っています。処刑後、遺体は近くの地に埋葬されたり、医者の手に渡って解剖されたりしました。

タイバーンツリーから吊された著名人には、エリザベス1世に従わなかったカトリック教徒ジョン・ストーリー、チャールズ1世処刑に関わったジョン・ブラッドショウ、そして王政復古後に遺体が掘り起こされ処刑されたオリバー・クロムウェルなどがいます。彼らの処刑は、王政復古後のチャールズ2世による、父王への復讐劇でした。

1783年11月3日、強盗犯ジョン・オースティンがタイバーン刑場で処刑されたのが最後となりました。その場所には現在、三つの真鍮の三角形が埋め込まれ、その歴史を伝えています。

タイバーン：言葉の影

「タイバーン」という言葉は、婉曲的な表現にも使われていました。「タイバーンへ馬で乗り入れる」とは絞首刑に処されることを、「タイバーンの荘園領主」とは公開処刑された者を意味しました。「タイバーン・ジグを踊る」とは、絞首刑の最中の苦悶の動きを表現した言葉です。死刑囚たちは、ニューゲート監獄から屋根のない牛車に乗り、まるで劇場へ行くように、最高の服を身にまとい、処刑の場へと向かいました。道中、居酒屋に立ち寄り「最後の酒」を許されたりもしました。観衆は、潔い死に様を称賛したり、逆に死を恐れて騒ぐ囚人をあざけったりもしました。

タイバーンは、ロンドンの歴史において、法の象徴であり、同時に人々の生死を分かつ、暗い影を落としていた場所だったのです。現在、その地名はワットリング街の一部に残るのみですが、その歴史は、今もなお人々の記憶に刻まれています。

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