スウェーデンの原子爆弾開発

スウェーデンの原子爆弾開発計画：冷戦下の選択と平和への転換

第二次世界大戦終結後、東西冷戦の緊張が続く中、スウェーデンは武装中立を維持しつつ、ソビエト連邦からの潜在的な脅威に対処する必要性に迫られていました。この状況下、スウェーデン政府と軍部は、自国の安全保障を確保するための手段として、原子爆弾開発という極めて機密性の高い計画に着手することになります。

広島への原子爆弾投下の衝撃的な威力は、スウェーデン軍上層部にも強い印象を与えました。さらに、アメリカ合衆国のマンハッタン計画に関する情報（「スミスレポート」）を入手したスウェーデン政府は、原子力の平和利用と軍事利用の両面からその可能性を探り始めます。

1947年、表面上は原子力の平和利用を推進する目的で、半官半民の原子力発電公社が設立されました。しかし、裏では国内のウラン資源を活用し、核兵器級の核燃料生産が容易な重水炉を用いた原子爆弾開発が秘密裏に進められていました。

1948年から、スウェーデン国立防衛研究所において、核兵器開発計画が5つの部門（基礎研究、プルトニウム生産、原子炉・濃縮施設建設、運搬兵器の確保、核兵器の組み立てと試験）に分割され、本格的に始動しました。開発目標は、自国防衛のための戦術核兵器に限定され、ソ連への攻撃を目的とした戦略核兵器の開発は計画されていませんでした。

しかし、開発は容易ではありませんでした。スウェーデンで採掘可能なウランは低品位の黒色頁岩であり、精製に困難が伴いました。それでも、1950年代後半にはいくつかの重要な部品を試作し、地下核実験を行うレベルに到達したとされています。

ところが、スウェーデン国会で核兵器の研究開発禁止が決議されました。これにより、核攻撃からの防衛兵器の開発のみが許可されることになります。

1960年代に入ると、アメリカを中心とした西側諸国と東側諸国との間の対話による核戦争回避の動きが活発化し、国内では女性政治家を中心とした反核運動が台頭してきました。また、国防省は財政能力を理由に核開発計画の放棄を検討し始めます。最終的に、核兵器級核燃料の抽出に適さない軽水炉の導入が決定され、長年秘密裏に進められてきた原子爆弾開発計画は、ついに断念されることになります。

1968年、スウェーデン政府は核拡散防止条約（NPT）を批准し、1972年には核兵器開発を完全に中止しました。現在、スウェーデンは核兵器廃絶を強く訴え、原子力を平和利用のみに限定しています。

スウェーデンが核保有を断念した背景には、東西両陣営間の対話と核軍縮の進展といった国際情勢の変化が大きく影響しています。また、戦闘機開発（サーブ37 ビゲン）との優先順位の比較において、戦闘機開発が優先されたことも要因の一つとして挙げられます。なお、スイスも同時期に核開発計画を進めており、中立国同士の共同開発の可能性も検討されたと伝えられています。スウェーデンのケースは、冷戦下における中立国の難しい選択と、平和への転換を示す歴史的な事例と言えるでしょう。

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