スコラ・カントルム

スコラ・カントルムとは

スコラ・カントルム（Schola Cantorum）は、中世ヨーロッパに起源を持つ聖歌学校をルーツとする音楽学校です。特に、1894年にフランスのパリで設立された音楽学校は、ヴァンサン・ダンディがパリ音楽院に対抗して設立したことで知られています。

パリ・スコラ・カントルムの設立

パリ・スコラ・カントルムは、パリ5区のサン＝ジャック通り269番地に位置する私立の高等教育機関です。設立当初は、ダンディがシャルル・ボルドと共に裏方に回り、パリ音楽院のオルガン科教授であったアレクサンドル・ギルマンが校長を務めました。その後、ダンディが校長に就任し、独自のカリキュラムを導入して学校の基礎を築きました。

設立の背景

19世紀後半のパリ音楽院は、オペラ関係者の養成機関へと変質しており、声楽家といえばオペラ歌手、作曲家といえばオペラ作曲家というイメージが強くなっていました。ダンディの師であるセザール・フランクが、器楽作曲家であったためにパリの楽壇、特に音楽院の作曲科教授たちに受け入れられなかったことも、設立の背景にあります。また、当時の音楽院の試験は、学生の家族がサクラとして参加するなどの不正行為が見られ、試験範囲も狭く、学生の実力を測るには不十分でした。声楽科の試験では、ロッシーニのアリアが幅を利かせ、教師の質や知識不足、高齢化も問題視されていました。

教育方針と特徴

ダンディは、パリ音楽院を反面教師とし、徹底した教育を行うことを目指しました。スコラ・カントルムはラテン語で「歌唱伝習所」を意味し、中世初期にグレゴリオ聖歌を普及させるために教皇庁に設置された音楽機関の名を受け継いでいます。一般的には、古楽を実践的に復活させた音楽学校として知られていますが、ダンディの目的はそれだけではありませんでした。

声楽家や演奏家には、古今東西の幅広いレパートリーを習得させる一方、作曲家には音楽史の発展を追体験させ、様々な時代や作曲家の様式を模倣させることで、温故知新の精神を養い、新しい時代の音楽を創造できる人材育成を目指しました。ダンディ自身は、フランス楽壇では右翼のインテリとして知られていましたが、スコラ・カントルムではフランス音楽に偏ることなく、音楽の歴史や各国の作品を学ぶよう指導しました。パレストリーナ、ビクトリア、モンテヴェルディ、バッハ、ヘンデル、モーツァルト、ベートーヴェン、シューベルト、ブラームスなど幅広い作曲家の研究を学生に要求しました。また、グレゴリオ聖歌や民謡の研究も重視されました。

その後の影響

スコラ・カントルムの厳格な教育は、ガブリエル・フォーレがパリ音楽院院長に就任した際、音楽院の改革を促すきっかけとなりました。フォーレは、音楽院のカリキュラム刷新、教師陣の若返り、試験の非公開化、研究課題にドイツ音楽を含める、声楽科のオペラ偏重を是正し歌曲を重視するなどの改革を行いました。ダンディ自身も、パリ音楽院との兼職を否定しておらず、互いに影響し合っていたことが伺えます。

著名な教員・卒業生

スコラ・カントルムの著名な教員には、フォーレの愛弟子であるナディア・ブーランジェがいます。また、アルベール・ルーセルやエリック・サティなど、多くの著名な音楽家を輩出しており、日本人の音楽家では高木東六などが卒業生として知られています。

スコラ・カントルムは、音楽教育において重要な役割を果たし、その影響は現在にも及んでいます。

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