スコル

スコル：太陽を追い詰める北欧神話の魔狼

北欧神話において、スコル（Sköll）は畏怖の念を抱かせる存在です。表記にはスコール、スコッル、スケルといった揺らぎも見られますが、いずれも同種の存在を指します。彼は、凶悪な魔狼フェンリルと鉄の森の女巨人との間に生まれた狼で、その名は古ノルド語で「嘲笑うもの」「高笑い」を意味するとされています。解釈によっては「騒音」や「まどわし」といった意味も含まれると考えられています。

スコルの最も顕著な特徴は、太陽（ソール）を常に追いかけている点です。北欧の人々は、日食をスコルが太陽を捕らえたために起こる現象だと信じました。日食の際には、人々は狼の魔の手から太陽を取り戻そうと、鍋を叩いてスコルを威嚇し、太陽を吐き出させようと試みたと言われています。

興味深いのは、スコルが単なる狼ではなく、狼の姿をした巨人とも考えられている点です。これは、世界各地の神話で天体現象、特に日食や月食が天空の怪物の仕業だと説明されていることと関連していると考えられます。北欧やゲルマン地域では、そのような天災の象徴として狼が頻繁に用いられており、スコルはその典型と言えるでしょう。

ラグナロク、すなわち世界の終末においては、スコルはついに太陽に追いつき、それを飲み込むと予言されています。この出来事は、世界に終焉をもたらす壮絶な出来事として描かれています。

スコルという名は、単なる神話上の存在にとどまらず、現実世界にもその名を刻んでいます。土星の第47衛星に、この北欧神話の狼にちなんだ「スコル」という名が付けられているのです。これは、土星の衛星群の中でも「北欧群」と呼ばれるグループに属しており、北欧神話との繋がりが示されています。

スコルは、太陽を追い詰める狼という単純なイメージを超え、天体現象と結びついた深遠な象徴性を持ちます。日食という自然現象を、神話的世界観を通して解釈し、人間の畏怖や願いを反映した存在として、北欧神話に重要な役割を担っています。狼が太陽や月を追い、最終的にそれを食らうというモチーフは、「送り狼」という概念にも見られ、オオカミの習性に由来する解釈も存在します。 スコルは、単なる神話上の狼ではなく、自然現象と人間の想像力が織りなす壮大な物語の重要な登場人物なのです。

参考文献

V.G.ネッケル他編『エッダ 古代北欧歌謡集』谷口幸男訳、新潮社、1973年、ISBN 4-10-313701-0。

関連項目

ハティ（月食）
スコル (衛星) - 土星の衛星の1つ。
送り狼

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