ハティ

北欧神話における狼ハティ：月を追い続ける影

北欧神話において、ハティ(Hati)は「憎しみ」や「敵」を意味する狼として登場します。この狼は、月（マーニ）を絶え間なく追いかけ続ける存在であり、古くから人々は月食をハティが月を捕らえた結果だと解釈していました。

いくつかの文献では、ハティが巨大な狼フェンリルの子であるとする記述も見られます。『ギュルヴィたぶらかし』第12章では、ハティは「ハティ・フローズヴィトニルソン」（フローズヴィトニルはフェンリルの別名）と呼ばれており、その血筋を示唆しています。さらに同書の第51章では、終末の日ラグナロクにおいて、ついにハティが月に追いつき、甚大な被害を与えると予言されています。

ハティは、同じく月を追うとされる「マーナガルム」と同一視されることもありますが、両者の関係性については諸説あります。

日食や月食といった天体現象は、世界各地の神話において、天空の怪物の仕業として解釈されてきました。北欧やゲルマン地域では、このような天変地異の象徴として「狼」が頻繁に用いられており、ハティはその代表的な存在と言えるでしょう。狼が太陽や月を追い詰め、ついには捕食するというモチーフは、世界各地の神話に見られる共通のテーマです。これは、狼の習性や生態が、このような神話的解釈に影響を与えた可能性を示唆しています。

興味深いことに、土星の衛星の一つにもハティと名付けられた天体があります。これは、北欧神話におけるハティの知名度と影響力の大きさを示す一つの証拠と言えるでしょう。この衛星は、土星の「北欧群」と呼ばれる衛星群に属しており、その名前からも北欧神話との繋がりを感じ取ることができます。

ハティに関する記述は、古ノルド語の文献や、それらに基づいた二次資料に散見されます。これらの文献を詳細に分析することで、北欧の人々がどのように自然現象を捉え、解釈していたのかを理解することができます。ハティは、単なる架空の狼ではなく、北欧世界観を理解する上で重要な象徴的な存在なのです。神話におけるハティの役割、そしてそのイメージが、現代においても土星の衛星の名前に残されていることは、北欧神話の文化的影響力の深さを示す一例と言えるでしょう。

関連事項

スコル：ハティと共に太陽や月を襲う狼
マーナガルム：月に関連するもう一つの狼。ハティと同一視される場合もある。
ハティ(衛星)：土星の第43衛星。北欧神話に登場する狼ハティにちなんで命名された。
送り狼：太陽や月の後を追い、最後に追いついてこれを食らうとする、オオカミの習性に基づく表現。

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